[決闘〜After Image〜]
劉備先生の校内放送後、は夏侯淵を連れて校庭へと出た。
馬超達もようやく放心状態から抜け出したらしく、納得が行かないとは思いつつ、同じく校庭へ足を向ける。
だが馬超・趙雲の二人は、未だあっと言う間の瞬殺(?)劇に、首を傾げていた。
唯一諸葛亮だけは、何か知っているのか「全く………使えない総大将ですね」とボヤいていたが。
ならば、どうして勝てたのか?
と対峙する相手が同じ一般女性ならまだしも、あの夏侯淵という棍棒を軽々と振り回す男相手に。
秘かに、何かしらの策を用いたとか?
あるいは、気配を消して忍び寄ったとか?
もしくは、色仕掛けと見せ掛けて、怯んだ所にギザ剣を突き付けたとか?
謎が多い。
というか、それ以前に夏侯淵は何所に居たのだろうか。
考えれば、成る程彼女達は体育館倉庫から出て来た。
ならば彼は、倉庫に潜んでいたのか。
一連の出来事を知らない二人にとっての結論は、それだった。
『倉庫に身を隠し、相手の虚を付き油断した所を…………………プスッと』というもの。
しかし、同じくあの場に居た諸葛亮は、何やら先程からブツブツと言っている。
なので馬超は、正直に聞いてみた。
「おい、諸葛」
「…………………何でしょうか?私は思案中で、忙しいのですが」
諸葛亮は何やら「夏侯殿……月のない夜には、お気を付け下さいね、ふふ」と言いながらも、馬超に視線を寄越す。
それに内心『何が月のない夜に、だ?何か企んでんのか?』と恐怖しながらも、彼は問う。
「何で妙才は、あんな所に居たんだ?」
「…………………………………………さぁ?」
「嘘付け!!お前何か隠してんだろ!?」
「ふふふ………私を疑っておいでですか?」
「当たり前だ!!吐け、何だ!?」
余りの剣幕にウザッたさを感じたのか、諸葛亮は顔を顰めながらも(馬超の唾が飛んで来る為)口元を羽扇で隠し、ふふふと笑った。
「ふふ…………あの方は…………単に寝ていただけのようですよ」
「……………は?」
「私は少々用事があったので、暫く本陣を空けていたのですが……」
「その続きをとっとと言え!!」
変わらず唾を飛ばし続ける彼に、諸葛亮は羽扇ガードをしつつ続けた。
「急いては事を為損じる、ですよ馬殿。まぁ良いでしょう。私が本陣に戻った際、誰も残っていらっしゃらなかったのですよ」
「誰も?何言ってんだ、妙才の奴があん中に居ただろう?」
「そうなんですよ。私も『総大将が本陣を残すとは……』と目を疑ったのですが。するとどうでしょう?倉庫の中から、まるで地の底から沸き上がるような鼾が聞こえて来るではありませんか」
馬超はそれだけで、内容を理解した。
要は、夏侯淵は本陣に誰も居なくなって『まだ敵が来るには時間があんだろー?』という予測をつけ、マットがある倉庫で寝ていたのだ。
だが予想外にも、自分達は本陣をガラ空きにして敵本陣までやって来た。
そして自分達が戦っている際、は暇だったのか倉庫からボールやらを出して援護でもしようと思っていたのだろう。
だが中を見てみると、そこには敵総大将の夏侯淵。
その時の………ギザ剣を手に、覇王そのものののほくそ笑み具合が、目に浮かんだ。
「…………………全く」
「…………………そういう事か」
馬超の言葉を、趙雲が紡ぐ。
彼もそれだけで理解したのか、顎に手を当てふむと唸りながら。
諸葛亮が横で「余りにも鼾が煩いので、ガムテープで鼻を閉じて差し上げたのです」と誇らしげに語っていたが、聞かなかった事にする。
更には「それでも殿に見つかってしまいましたが……」と、何やら怪しげに笑う彼の姿は、もう視線をやる事すらも恐ろしい。
なので彼等は「先に行く」と伝えて、そそくさと諸葛亮から距離を空けた。
「ではこれから、表彰式を行いたいと思う」
校庭ではすでに表彰式の準備が整ったらしく、劉備先生の声が朝礼用のマイクを通して響く。
馬超達が最後だったらしく、一部怪我やリタイアで保健室に運ばれた者以外は、これで殆ど揃った。
「では始めよう。優勝は、軍!!!」
「イェ〜イ!!」
劉備の声と共に、はくねくねと腰を振り右手を掲げ、指で『ナンバーワンポーズ』をする。
それに続けて同軍からは「やったぜ!!」「………目出たい」「キャンプファイヤーで祝いたいですね!」と声援が上がる。
一部デンジャラスな発言があったが、劉備先生はそんな細かい事は気にしない。
「そして準優勝は、夏侯淵軍!!!」
「カラオケ…………」
半分は優しさで出来ている劉備先生は、あえて『勝ち組・負け組』ではなく『優勝・準優勝』と言って、夏侯淵軍の健闘を讃えた。
だが夏侯淵はそれでも『惇兄とカラオケ』が諦めきれなかったらしく、グスグスと鼻を鳴らしている。
それを丁度良く見ていた呂布が、泣くな!と思った。
「えー、では。優勝した軍には、先程言っていた褒美を…………」
「ちょっと待って下さい、劉先生!!」
ここで待ったをかけたのは、褒美を貰えるはずの。
彼女は何を思ったか、片手を前に出して劉備先生を見つめた。
「どうしたのだ、?そなたの褒美は、確か……………」
「妙才を子分に………か?」
「あっ」
劉備先生の言葉を遮って続けたのは、夏侯惇だった。
そして意外な人物の登場に思わず声を上げたのは、。
そういえば。
夏侯惇は、どこに居たのだろう?
優勝商品扱いであった為、どちらの軍にも入る事は出来なかっただろうが、今まで何所に?
すると、夏侯惇はその考えを読んだのか「何やら騒がしかったから、寮へ戻っていた」と簡単に言った。
そして彼は、夏侯淵に視線をやる。
「淵」
「と、惇兄!?」
「お前が優勝したら、俺とカラオケ……………か」
「ち、違うんだよコレはその………アレだ…………その………………」
彼の大好きな惇兄は、顔は笑っているが目が笑っていない。
はっきり言うと、かなり恐い。
というか、それだけで怒っていると、誰の目から見ても分かった。
確かに恐かった。
だが、には『困った奴だな』と思っているように感じた。
夏侯惇の瞳が。
故に彼女は、彼を見上げてゆっくりと口を開いた。
「夏侯さん」
「ん、か。どうした?」
「夏侯君…………淵君と一緒に、カラオケに行って上げてくれませんか?」
「…………………」
夏侯惇は考え込むように口を閉ざしたが、はそれでも続けた。
「だって淵君、夏侯さんとカラオケに行きたい一心で、こんな大規模な戦争を起こしたんですよ?」
「……………………」
「それに、淵君は確かに体育館の倉庫で寝ていたかもしれないですけど、頑張ったとは思います」
「……………………」
内心夏侯淵は『俺はお前と「一騎討ちしたい」って言っただけなんだけどな……』と、某紫軍師とチョビ髭が
このような大惨事を起こした事を弁解したかったが、下手に口を挟む事はしなかった。
そしてのローカルな話に内心傷付きつつも、彼女が自分を支援してくれている事に、驚いていた。
『俺はお前に喧嘩売ったのに………』
彼は泣きそうになった。
男が泣くな!!とか思われそうだが、それだけ彼にとっての支援は驚きと鼻水垂らす程嬉しい物だったから。
「ですから、淵君とカラオケに行って上げてください」
「……………………分かった」
どうやら彼女達も話は付いたようで、夏侯惇はフッと一つ笑うと了承を示した。
それに、夏侯淵は「惇兄……」と目をウルウルさせる。
彼はを見つめると、いきなり羽交い締めにした。
というか、抱き着いた。
「なっ!?何すんのアンタ!!?!?」
「俺は………俺はお前の事を誤解してた!!!」
「はぁ!?」
「お前は惇兄を取った魔性の女だと思ってたが………全然良い奴じゃねぇか!!」
「意味分かんねーよ!!!」
ズビズビと鼻を垂らしながら抱きしめて来る男に、『鼻水付きそうだから離せ!!』と言いたくても苦しくて言えない。
すると、夏侯惇が彼等を引き離した。
苦笑を漏らし、口元を緩めて。
「夏侯さん、有り難うございます!」
「あぁ、気に病むな」
「、本当に俺はお前に感謝だぜ!」
互いが互いに礼を言い合っていると、コホンと咳払いが聞こえた。
三人が一斉にそちらを見ると、劉備先生がニッコリと微笑んでいる。
劉備先生は、彼等三人をゆっくりと眺めると、言った。
「では、の褒美は『夏侯淵を子分にする』から『夏侯惇と夏侯淵がカラオケに行く』に変更で、良いのだな?」
「はい、それでお願いします!!」
「うむ、分かった」
劉備先生はそれを快く了承すると、声を上げて「これにて、第一回・無双学園大戦大会を終了する!」と言った。
それにも嬉しそうに笑顔を見せ、夏侯淵は夏侯惇とカラオケに行ける、という褒美に心を弾ませる。
これにて、大団円!!
かと思いきや。
ここで納得が行かない者が、数人いた。
「待たんか!わしらをここまで付き合わせておいて、それはないだろう!!!」
「そうだぞ〜!おらも一生懸命戦っただよ〜!!」
「おめぇは腹減ったっつって、何もしてなかったろうが!!!」
「それを言うなら興覇、お前も典と戦ったは良いが、校内を破壊し尽くしただろう?」
「老体に鞭打ったというに…………これでは納得行かんな」
「ストラップまだ見つからないよぉ〜!!」
「もう諦めなさいよ!!!」
とんでもない。
彼等は不満も不満、ストを起こしそうな勢いである。
それをはっはっは、と笑い飛ばして、劉備先生は言った。
「そうか、それもそうだな。ならば皆に、何かしらの褒美を与える。それで良いかな?」
鶴の一声に皆納得したらしい。
一同はうんうんと首を縦に振り、喜色を現した。
「そうだな…………皆の褒美は近々考えるとして。すぐにとは行かないが、皆許してくれるか?」
人徳オーラは違う。
は素直にそう思った。
それは皆も。
劉備先生から発される『人徳』オーラは、今は後光が差して見える。
すげー。
内心、皆感動した。
「では、これにて行事を終了する!解散!!」
「お疲れー」
「おう、お疲れ」
「お前、中々やるな」
「そうか?おめぇも中々だったぜ?」
「我らの努力は一体……」
「………………権様、お気を確かに」
「ふん、下らん」
「ところで呂殿、お強いんですね!今度是非稽古を付けて頂きたいです!!」
「そもそも火矢と言うのはですね………」
「ふむ、皆同じと考えていたが、油だけでそれ程違うとは………」
皆、各々が各々に散って行く。
お疲れーから始まって、中には友情が芽生える者、間柄を深める者、趣味が同じだと分かり合う者まで。
この大会を通して。
夏侯淵は望みを果たせそうだし、皆も各々良い方向へ向いている。
は寮やら校内へ帰る者達の背を見つめ、一息付いて笑顔を作った。
「本当、お疲れって感じだね」
「あぁ、そうだな」
「、怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫。馬ッチと子龍兄は?」
「俺は…………諸葛にビーム食らっただけだしな」
「そうですね、私も怪我と言う怪我はありませんよ」
そっか、と笑い合う。
馬超と趙雲の『兄妹』の三人で。
ふと、もう太陽が夕陽と呼ばれるモノに変わっている事に気付いた。
「あ」
「もうこんな時間か………」
「綺麗ですね」
彼等の健闘を讃えるように、夕陽は校庭に残った三人を照らす。
が夕陽の方へと目を向けると、彼等も同時にそちらへ目をやった。
馬超は、夕陽を見てある程度時間を察知したのか目を細めていた。
趙雲も、心なしかうっすらと微笑んでいる。
はなんとなく、この二人と一緒に居られて幸せだ、と感じた。
心の中で。
兄と慕う男二人に挟まれて、彼女は彼等の腕に、腕を絡める。
すると、彼等は彼女に気付かれぬよう、目配せをして笑い合った。
「そろそろ、戻ろうか?」
「それも良いが…………」
「もう少し、こうしていたいですね」
彼等の言葉が嬉しく感じ、は満面の笑みを作った。
彼等も各々笑みを零し、夕陽を見つめた。
妹と二人の兄の影は、これから輝く満天の星空が変わる頃合まで、消える事はなかった。



