在学編


[意外なお誘い]






「おはよ〜ん!」

「おう」

「早ぇじゃねぇか」

「おーっす!!」



第一次無双学園大戦の翌日。

は朝から御機嫌で、教室の扉を開いた。

中へ入り、自分の机に鞄を置いて、留年三人衆の溜まっている机へ向かう。



が元気良く挨拶をすると、馬超・典韋・孫策の順に挨拶が帰って来た。

馬超がさり気なく進めてくれた椅子に座り、机に頬杖を付く。

一人笑っていると、すかさず孫策の突っ込みが入った。



、どうしたんだ〜?何か朝からゴキゲンだぜ〜!」

「まぁねん!何か気分がサッパリしてるんだよねー!」

「んーでだ?」



ムフフと笑って孫策に返すと、今度は典韋が不思議そうに聞いて来る。

なので、はニィッと笑って言った。



「それが何でだか、分からないんだよねー」

「分かんねぇだぁ?」

「うん。良く分かんないんだけど、何かスッキリしてんの。何だろコレ?」

「……………………」



と典韋、そして孫策までもが不思議そうに首を傾げている中で、たった一人馬超だけは理由が分かった気がした。

多分、昨日の大戦中に起きた、アノ出来事の所為であろう。



は昨日の戦争中、というよりか戦争前、何かがキレてしまった。

そして、それが引き起こした結果が『覇王・』の誕生。

馬超と趙雲は「ほっときゃその内直るだろ」と思っていたのだが、アレは突発的に発症するらしいという事が、分かった。



宣誓時と本拠地時。

そして、敵本陣に乗り込んだ際。



今思い返しても、あの時の彼女は恐ろしかった。

どうにも出来ないワケではないが、『覇王』状態の彼女は、何となく怒らせない方が良いと考えた。

趙雲と共に。



だが同時に、少しもったいない、とも思う。

彼女は図体がデカいし、態度もデカい。

そして覚醒すると、覇王になる事も分かった。



いつか「剣術や棒術なんて、習った事もない」と言っていたが、本当にもったいないと馬超は思う。

あの長身で武道が出来れば、さぞ絵になる事だろう。

『武道をやっていれば、孫権に貰ったギザ剣を振るう彼女は、さぞ見物だったのにな』と思いながら、馬超はに目を移した。



彼女達は別の話題で盛り上がっているらしく、身振り手振りで話すに、孫策も典韋も爆笑しながら聞き入っている。

何の話をしているんだ、と思い、耳を傾けると。



「ってゆーかさー、あたしも試合中継見たかったー!」

「何言ってやがる。お前は大将だったんだから、仕方ねぇだろ?」

「そうだぜ〜!でも俺も見たかったな〜!」



話は昨日の出来事や感想等に絞られて、馬超以外、朝から異様なテンションだ。

はキャッキャと笑い、典韋は大口開けて彼女の肩を叩き、孫策は腹を抱えて爆笑している。

馬超は足を組むと、ふいにの頭を撫で始めた。



「…………………何?」

「何がだ?」

「この手」

「御褒美だ」

「………………何の?」

「勝利の」



「意味分からん」とが言うと、馬超は「まんまだ」と笑う。

すると、淡々と会話する二人の後ろから、クッと苦笑する声が聞こえた。

二人で「ん?」と言いながら振り返ると、そこには夏侯惇。

は思わず、声を上げてしまった。



「かっ…………夏侯さん!!」

「……………おう」

「おはようございまっす!」

「……………あぁ」



単調に返事を返し、彼はの耳元で「ちょっと良いか?」と言った。

何だろう?と考えながらも「はい」と答え、苦い顔をしている馬超に「ちょっと出て来る」と言って、夏侯惇と共に姿を消した。



〜!頑張るんだぜ〜!!」

「何だぁ元譲の奴?もしかして、にコレか?」

「………………………典」

「わーってるって!冗談に決まってんだろーが!」



が消えた瞬間に、怒りの闘気を漲らせ始めた馬超。

孫策が、とんでもない勘違いな掛け声を送る傍ら、典韋は馬超に両手でハートマークを作って見せる。

だが、今の馬超にはその冗談も通じないらしく、彼はジロリと典韋を睨んだ。

それに典韋が、頭をポリポリとかきながら苦笑する。



「まぁ曹よりは、マシなんじゃねぇか〜?」

「わしは何も言えねぇ………」

「……………………ふん」



ガハハと笑う孫策・それに目を逸らす典韋二人を見つめて、馬超は不機嫌そうに鼻を鳴らした。










「それで、どうしたんですか?」



夏侯惇に連れて来られたのは、二階の渡り廊下だった。

の学年は二階だった為、一限目が始まる前に戻れるようにと、夏侯惇の配慮だろう。

が開口一番そう聞くと、彼はふむと唸って口を開いた。



「…………………淵の事なんだが」

「夏侯君ですか」

「あぁ……………」



それから先が聞きたいのに、彼は途端口を噤んでしまう。

表情は苦虫を噛み潰したように、顰められている。

は続きを促したかったが、控え目にしておこうと考え、彼の言葉を待った。



「…………………礼を言う」

「はっ?」



は思わず、素でそう言ってしまった。

それもそのはずで、は夏侯淵の事で夏侯惇から礼を言われる覚えはない。

呆気に取られ見つめていると、彼は視線を逸らして続けた。



「その…………淵の我侭に付き合わせてしまったようだからな…………」

「あ、戦の事ですか?」

「あぁ」



夏侯惇は礼を言うと同時に、『淵の嫉妬心から、お前を危ない目に合わせかけて済まない』と謝っていたのだ。

何も戦う術を持たないパンピーの彼女に、危ない橋を渡らせた事を。

それには「いいですよ別に、楽しかったですし」と苦笑したが、彼は一つ咳払いをすると、じっと彼女を見つめた。



「…………何ですか?」

「………………………」

「な、何でそんなに見つめるんですか?」

「………………………」

「か、夏侯さん?」

「…………………言え」

「は?」



またも突然に「言え」だけの一言。

一体何を「言え」なのか、は頭をフル回転させて考えた。

しかし、全く持って何を「言え」と言っているのか、理解出来ない。

すると、夏侯惇は顎髭を撫でながら、付け足した。



「お前に礼と詫びがしたい。だが何をしたら良いのか分からん」

「あぁ、そういう事ですか」

「……………で、何が良い?」



彼は礼と詫びを含めて、何かしてくれるらしい。

もしくは、何かくれるか。



だが、には今、別段欲しいものもなかった。

なので、彼女は素直にそれを告げる。

すると、夏侯惇は暫く考えた後、またもとんでもない事を言ってのけた。



「ならば、今度何処かへ連れて行ってやろうか……………?」と。



が目を見開いたのと同じくして、HRのチャイムが、校内に響いた。