在学編


[ヤキモチ×ヤキモチ]






HRの始まりのチャイムと共に、夏侯惇は「ではな」と、ダンディーに言って、戻って行った。

の返答を、聞く事はなく。

その間、は彼の去り行く姿を、只々呆然と見つめていた。

しかし、HRが始まってしまうと我に帰った彼女は、祝融先生が来る前に、急ぎ教室へと戻った。












「ただいまーん!」



「おう、どうだった?」

「かなりアレな感じだぜ〜?」

「…………………」


ガラガラと扉を開けて、先程皆でたむろっていた場所へ戻ると、典韋と孫策がニヤニヤと笑い、馬超は何を怒っているのか、一人でムスッとしていた。

は先程から、ニヤけが止まらない。



〜!どうだったんだ〜?」

「うん、何て言うか………淵君の我侭に尽き合わせて済まないって……」

「元譲の奴が、頭下げたのか!?」



ここに座れや〜、と指さしながら言った孫策に、が笑いながら返すと、『マジか!?』とばかりに典韋が問う。

それに「頭下げるっていうか、お礼とお詫びのミックスみたいな?」と、微妙な返事をすると、今までムクれて黙っていた馬超が、彼女の肩を叩いた。





「ん、何?」

「夏侯の奴に、何を言われたんだ?」

「えっ!!!」



彼の、ストライクゾーンを一発で突いた一言に、は思わず驚いてしまう。

目を丸くして、口をあんぐり開けて。

しかし、孫策と典韋は『何の話だ?』と言う顔をして、馬超とを交互に見つめる。



「な、何の事かなぁ?」

「しらばっくれるな」

「典ちゃん、そろそろHR始まりそうな予感だね!」

「おぁ?お、おう」



シラを切ろうとするも、馬超にはお見通しらしい。

なので、は「祝融先生が来ちゃうかも〜」とか言いながら、典韋に話を振りつつ、立ち上がった。

だが、馬超が彼女の腕を、反射的に掴んだ事により、それは不成功に終わる。





「な、何でしょう孟起殿?」

「字を呼んでゴマかすな」

「………………見逃してよ、馬ッチ」

「無理だな」



ガッシリという文字が似合う程、彼はの腕を掴みまくっている。

『逃がさねぇ!』みたいに。

しかし流石というか、食い込む程、力は入れていない。

ただ、『彼女の力では解けない』程度には、入れているが。



「馬ッチ〜!」

「甘えるな」



甘えた声で拘束を外そうと試みるも、馬超は首を振って『いや、無理だから』と伝える。

んなろー、と心で舌打ちしていただが、それに天の助けが下りた。

祝融先生が、入って来たのだ。



「オラァ!!HR始めるよ!!!」



「よっしゃ!!」

「ちっ…………」



先生の登場に、思わず拳を握り締めたのは

そして、先程の彼女同様、舌打ちをしたのは馬超。

典韋と孫策は、黙ってその状況を見守っている。



「そんじゃまた中休みにね〜ん!」

「つーか、俺とお前は席隣だぞ」

「マジっすか!?」

「というか、忘れるな」



『馬超とお隣さん』という事を、うっかり忘れて居たは、目をひん剥いて驚愕した。

未だ取られたままの腕は、ワナワナと震えている。



「じゅ、授業中は話し掛けないでよ……?」

「お前次第だ」

「話してたら、あたしまで怒られんでしょ!」

「なら話せ」



「嫌でございます」



「馬ッチには関係ないでしょ!」

「力づくでも、吐かせるからな」



と、ここでいつものごとく、祝融先生のチョーク攻撃が、馬超の額にヒットした。

その不意打ち&余りの痛さに、「ぐあっ!」と苦悶の声を上げるが、は心の中で大爆笑だった。

その『一度ならず二度までもだよー!』と言いそうな彼女の表情を見て、馬超がキッと睨み付ける。



、お前っ………!!」

「天罰天罰、プププッ!」



「ほら!とっとと自分の席に着きな!」



笑われたのがムカついたのか、馬超が声を荒げようとするが、それは祝融先生の一喝により、強制終了になる。

なので、馬超は渋々席へ戻った。












一時限目は、音楽だった。



音楽・体育・道徳は全学年合同で行う為、全員が丸々入るドデかい教室に、収容された。

広々とした教室には、大人数分の机と椅子が、容易されている。



その時、は馬超から遠ざかろうと計ったが、逃げる前に捕獲された。

何とか趙雲に助けてもらおうとするも、彼はメールで馬超から知らされたのか、にっこりと(暗黒の)笑みを作り、逆に彼等に挟み撃ちにされる。



趙雲だけでも味方に取り込もう、と考えたが、生憎この暗黒バージョン時の兄貴は、の腕をしっかりと掴まれた。

そして、「さて、つもる話もあるだろう。今日は兄二人と妹で、ゆっくりしようじゃないか」などと抜かしつつ、音楽担当の甄姫先生の目に入らぬよう、目立たぬよう、縦笛片手に隅っこの方へと誘った。



だが、簡単にやられたままのではない。



数十人分の縦笛がピーピー鳴る中、彼女は突如手を上げて、それを見た甄姫先生に近付き「腹が痛いです」と告げたのだ。

それからは予測が付くだろうが、心配した甄姫先生の配慮により、彼女は保健室へ逃亡する事に、成功する。



教室を抜ける際、馬超と趙雲を見遣ると、彼等はこぞって『チッ、逃がしたか』みたいな表情で、顔を顰めていた。

『捕まって堪るか!』と思いつつ、普段は仲良しの兄貴達もタッグを組むと恐いんだな、とは痛烈に感じた。