在学編


[Run Away]






波乱に満ちた一日が、ようやく陽が傾きかけて来た頃に終わりを告げる。



その『放課後』という道のりまでには、数々の難関が彼女を襲ったが、それは何か言う前に既に味方である甘寧と孫権、そして何より火矢を伴ったサラマンダー伯言の鉄壁防御が、彼女を救ったのだ。



は、孫権達にかくまわれるように、甘寧におんぶされ、前に孫権後ろに姜維。

それぞれがそれぞれに武器を持ち、移動教室ばかりの日程に舌打ちをしつつ、陸遜に殿を任せ、色々な方法でプリンセスを攫おうとする難敵を、討ち滅ぼした。



討ち滅ぼしたというか、殺ろうとした。

それが誰の思枠であったのかは、見解の別れる所ではあるが、火の化身だと言っておけば間違いはないだろう。



しかし、目に見える殺気を目にした兄貴ーズは、それでも『肉を切らせて骨を絶つ』手法を用いて―――どちらかが死を覚悟で囮になり(くじ引きで)、どちらかが姫を攫おうとする―――尚、失敗ばかりに終わったのだ。

途中、色んな意味で他の奴らを味方にし、正面勝負奇襲攻撃他諸々を仕掛けたが。



の兄と称する二人組は、様々な妨害を受け、時には斬り付けられたり吹き矢をけしかけられたり焦がされたりしながらも、結果として惨敗した。










そして現在。



は甘寧におんぶされたまま、最後の砦である自室へと、標準を変えた。

帰りのHRが終わるのと同時に、一体どうやったらそんなに早く来れるんだと突っ込みたくなるような甘寧と孫権、更に同じ学年である陸遜と、彼に「ここで命をかけなければ、誰がさんを救うのですか!?」という説得に簡単に乗った姜維と共に。



というか、陸遜のその発言により、姜維自身は教室を出る事なく兄貴ーズにボコられて終了したのだが、それが良い時間稼ぎになったのは、言うまでもない。

誰も居なくなった教室で、一人ほろりとやり遂げた涙を流す姜維を思って、孫権と甘寧は目頭が熱くなった。



『お前の死を、無駄にはしない!!』と。



というか、それ以前にが止めようとしたのではないか?という見解があって然るべきだが、炎の妖精は「伯約殿が敵を引き付けている合間に、早く!」とでも言ったのか、その言葉はまるで『彼が勝手に囮になってくれてるんです!』みたいな感じだ。

もそれを完璧に信じてしまい、「伯約、負けるなー!」と声援を残しつつ、陸遜の「彼なら無事です。えぇ、私が保証しますから」という言葉で、すっかり胸を撫で下ろしていた。



ここで甘寧と孫権が「お前が唆したんだろ!」とでも言えば、は「なんちゅー事を!」と、直に姜維を助けに行くはずだ。



だが、しかし。

彼等二人が、陸遜に逆らえるはずがなかった。



言うは容易いが、その後が恐い。

月の無い夜には気を付けて下さいね!という彼の笑顔が、咄嗟に思い浮かんだから。



なので『触らぬ悪魔に祟りなし』と、彼等はお口にチャックした。










「私は途中に罠を張りますので」と言って、雲隠れした陸遜の言葉に男二人が恐怖しているのも知らず、はダッシュ(甘寧乱舞)で階段を降り―――孫権は、甘寧の腰にしがみついて―――、下駄箱で靴を履き替えた。

その途中、降ろすのが嫌だと駄々を捏ねた甘寧により、彼女の靴を何故か孫権が履かせたという事実は、別にここで語る事もないだろう。



すると、上の階で物凄い爆発音が聞こえた。



チュド〜ン!というのは、今となっては古い使い回しかもしれないが、正にその表現がPITTARI(ぴったり)な程、盛大に何かが爆発(確定)したのだ。



「ちょっと!!なに今の音!?」

「さ、さぁ………?」

「いや………その……………何だろな……?」



さり気なく『お前が説明しろよ』と肘で突つき合う彼等を横目に、は顔を顰めた。



「まさか……!?」

「ち、違うぞ!!多分違うぞ!!」

「そうだぜ!お前は取り敢えず、逃げんのが先決だろ!?」



もしや、可愛い可愛い『弟分』第二号(一号は姜維)に、何かあったのではないか?と考えたに、彼等はこぞって首やら手を振った。

しかし『その可愛い弟二号が、お前の兄貴を殺ろうとしてるんだよ』とは言えず。



結果、彼等は「あれは多分、魏延先生の屁の音だ」と、聞き取り方によってはジョークにも本気にも取れる、この学園に居る者なら「ありえる……」と言いそうな嘘を吐いて、彼女を連れて外に出た。










その頃。



爆発のあった二階では、天使の微笑みを浮かべて、悪魔がにこにこ笑っていた。

クス、という表現がぴったりな程、その笑顔は薄気味悪い。



もくもくと立ち篭める爆発の名残り(煙り)の中で、陸遜は笑いを堪え切れずに、身を震わせた。



「クスクス…………とうとう殺りました…………」



陸流特製パイナップルを投げ付けた結果、思っていた以上に素晴らしい出来だったと、彼は笑いを堪え切れない。

そして、ツボに入ってしまったのか、身を折り曲げて笑い始める。



「プッ………ぷぷ………っ…………ふふふふふふふふ」



今だ煙りは収まる事を知らず、彼の周りは1m先も見えない。

しかし彼の後ろから、突如ゆら〜、と二つの影が忍び寄った。



「クスクスクスクス……………………あははははっはははははは!!」



「こんのっ…………!!!!!」

「火計小僧がぁ!!!!」



次の瞬間、陸遜の後頭部には、爆発に巻き込まれた兄貴ーズの怒りの鉄槌が下された。

ゴスッ!という小気味良い音と共に、ファイヤーボーイは崩れ去る。



やがて煙りも何もが沈静化された後、その場にボロボロになりながらも槍を支えに立っていた彼等は、乱れていた息を整えると、倒れ付した少年を見つめ言った。



「ふん…………陸、火遊びはお終いだ」

「ふっ…………陸殿、余り調子に乗っていると……………おねしょしますよ」



決してカッコ良くはないが、この二人が言うと、こんな状況でもサマになっている気がしなくもない。

しかし、それを言われた少年は既に昇天している為、台詞は空しく廊下に消える。



だが、取り敢えず最大の難関は超える事が出来た。

陸伯言という、酷くデンジャラスな関所を。



「…………の奴、只では済まさん!」

「…………め………私をないがしろにするとは、何事だ!」



それに一瞥くれながらも、馬超と趙雲はそれぞれ一言づつ残すと、下駄箱への道を急いだ。