在学編


[メンチェ]






夕焼けもそこそこに、夜の帳が、辺りを支配しようとする頃。

と孫権、そして甘寧は、げっそりとした様子で屋上から降りていた。



まだ陽も高い時間に出会った、星彩と関平に、しょーもな世間話に突き合わされたからである。

真剣な表情を崩す事のない美少女と、その傍で頷いたり、話題を変えたりして喋り続ける関平。

最中、甘寧は拗ねたまま、ずっとそっぽを向いていたし、と孫権は、『そろそろ屋上去りたいかなー』というオーラを出しているにも関わらず、全く気付く事もない転入生二人に、終止苦笑いだった。



としてみれば、もしかしたら趙雲と馬超が、この場所に来るかもしれない!という思いがあったし、また孫権も、の逃亡に加担した罪で、ある意味極刑を食らうのは確実。

唯一はっきりとモノを言う甘寧も、先の関平との、にこやか握手によって、ずっとむっつりしっぱなしだった。



もちろん、と孫権の耳に、転入生二人の会話は全くと言って良い程、入っていない。

それよりも、達は常に階段の方へと目と気を配り、聞いているのか?と疑われても仕方ないぐらい。

しかし、星彩然り関平然りで、達が聞いていようがいまいが関係なしに、ベラベラとくっちゃべっていた。



そして先程、関平の「あ!そういえば、先生達に挨拶に行かないと!」と言って、マイペースに星彩を引っ張って行ったところで、ようやっと地獄の世間トークは終わった。



関平が居なくなった事により、甘寧もようやく機嫌が直ったらしい。

手摺にもたれ、背を向けて居た体を、ぐるりとに向けた。



直後、「何で助太刀しねーんだよ!」と、彼の左頬に彼女の覇王パンチがコークスクリューでめり込んだが、そこは打たれ強い甘寧的には、愛の鞭でもある。

と、彼の口内でボキッ!と、カルシウムで出来ていて、かつ食物を体内に取り込む際に、大切なはずである『何か』が折れたような音がしたが、覇王化した女性と、それを喜んで受け入れた男性を見て、孫権は聞かなかった事にしよう!と決意する。



そして、やはり体内を巡る、大半が鉄分である赤いものが、彼の口と鼻からボタボタと流れていたが、やはり孫権は『トマトだ、甘寧の口と鼻から流れているのは、トマトの汁だ!!』と、現実逃避した。










こんな時間だから、もう馬趙コンビは居ないだろう、と考えながらも、達はやはり警戒体勢を解く事なく、部屋を目指した。

いくら兄貴コンビといえど、本人が居ないのだから、もう部屋の前で待っている事はなかろう、という気持ち。



だが、相反するのは、『けれどあの二人なら、待っていてもおかしくない』という気持ち。

甘寧は、何故か自信があるらしく、「あいつらが来たら、また俺の乱舞で逃げればいーだろ?」と笑っていたが、生憎と孫権は、先の考えに『どっちだ!?』と眉を潜めている。



余談だが、の部屋は二階の奥にある。

階段からはかなり離れている為、兄貴コンビが居るか居ないか確認がてら、そぉっと廊下を覗いて見た。



と。



「…………居るよ」

「…………居るな」

「居んのか?」



視線の先、の部屋の前には、壁に凭れ『まだ来ないのか?』と苛々を募らせている馬超。

そして、とても『誠実爽やか青年』の異名を持つとは思えない、廊下は喫煙禁止なのにも関わらず、ウ○コ座りで煙草を吹かす趙雲。

馬超が無言で苛々しているのは分かるが、あの趙雲はどう見てもおかしい。

というか、怒りの頂点を突破してるのだろう、とあからさまに分かる。



それを見た孫権が、コソッとに呟いた。



「趙殿………一体何があったんだ?」

「違うよ、権。あれ、かなり怒ってるんだと思う………」

「し、しかし。どう見ても、あれは従来の趙殿ではない気が………」

「馬ッチ曰く、かなりカミングアウトしたっつってたから、それの一遍かと………」



カミングアウト=暗黒面、と聞いた孫権は、目を丸くしつつも、内心『マジかよヤベー』と鼻の穴を広げた。

ここでようやく、の逃亡に加担してしまった重大さに、否が応にも冷や汗が吹き出る。

しかし、気になる女性を売り渡してまで(孫権は、ここまで飛躍している)、漢を捨てるつもりなどなかった。



馬趙に見られぬよう、廊下の角に身をかくしつつ、と孫権が目を合わせ、落胆に肩を落としていると、甘寧は彼らしい、実にあっけらかんとした口調で、頭をボリボリ掻きながら、面倒臭そうにしている。

それを無視して、二人は『どうすんべか?』とアイコンタクトを取った。



『どうするよ?』

『どうすると言われても………これでは………』

『こうなったら、もう部屋には戻れないし……』

『しかし……かといって、これでは夜中まで居座りそうだぞ?』

『じゃあ、あたしは誰かの部屋に世話になるからさ』

『な、何を言っている!?』



喋っているわけでもないのに、途端にオロオロし出した孫権。

で、キョドる所か?と思いつつ、それをやけに冷静に見つめている。

甘寧はと言えば、逃亡劇に飽きたのか、階段に座り込みを開始し、携帯をいじっている。



「興覇」

「あ?」

「誰にメール?」

「何だ、ヤキモチ妬いてんなら、素直にそう言えよ?ようやく俺様の男らしさに、気付いたか?」

「いや、話し飛躍し過ぎだから。こんな時に、よくメールなんて出来るねぇ?」

「違ーよ。お前、どうせ今日は部屋に戻れねぇんだろ?だからダチに、部屋借りてやろうと………」

を連れ込んで、一体何をしようとしている!!!!??!?」



その不穏漂う会話から、孫権はすぐに彼の思惑に気付いたのか、声を荒げた。

咄嗟に、が彼の口元を覆ったが。

時は既に、遅かった。



を連れ込んで…………」

「○×△□しようだとぉ〜〜〜〜!!!!!!???」



三人が振り返ると、そこには馬超と趙雲。

孫権の大声で、飛んで来たのだ。



は額に手を当て、落胆の色を隠せず、甘寧は甘寧で、素知らぬ振りを決め込んでいる。

唯一孫権は、大声を出してしまった失態と、そしてこれからの現実に、内心大泣きしていた。



先の馬超の発言は、を思う兄としての気持ちが篭っているのが、ありありと分かる。

を連れ込んで………と言いながら、血管を沸き上がらせてヒクッと口元を上げ。



しかし。



その後の趙雲の発言は、まだ誰も言ってない。

だが、誰でもチョメチョメだという事は分かっていた為、敢えて彼の問題発言には、突っ込む者はいなかった。



「ほぉ………興覇、貴様覚悟は出来ているだろうな?」

「興覇。の逃亡に加担しただけでも、重罪だと分かっているだろう?その罪を、お前は自身で更に重くしたという事を、その身をもって分からせてやろう……………」



馬超の台詞は、やはり妹分を思う兄のそれ。

だが、やはり趙雲はの台詞は、言葉遣いがおかしく、とてもじゃないが兄というカテゴリーで分けられそうではない。



というか、ナイトっぽかった。

ナイトというか、世界はを中心に回っているのだ!と言う感じである。



それを見て、孫権は思った。

殺される。



だが彼も、簡単に死を受け入れる気はなかった。

腐っても虎の子である。

というか、次男でも虎の子なのだ。



怪しい空気を醸し出す、三兄妹の長兄を、彼はキッと睨み付けた。

そして、どこからか取り出したギザ剣で、彼と間合いを取る。

いつの間にか、趙雲VS孫権の図式が完成した。



「ちょっ………子龍兄に権ちゃん?」

「ふふふ……………私と戦おうというつもりですか?権殿」

「孫仲謀、この命と誇りにかけて、を守り通すぞ!!!」



その言葉に、は「はぁ!?」と目を見開いた。

ある意味、愛の告白めいたものだからである。

しかし、は脳内で瞬時に『あぁ、大事な友達だから、そんな簡単に売り渡さないって事か』と決着を付けてしまい、そんな事を知らない孫権は、ちょっと照れくさそうにしながらも、趙雲を見つめた。



しかし。



今の孫権の言葉は、趙雲に対する挑戦状ならぬ、言うなれば『下克上』である。

そう判断したのは、と馬超の二人。



『これから、この場は血に塗れる……』



二人は冷や汗を流し、同時に目を合わせた。

甘寧は、相変わらず携帯をいじっていたが、は敢えて何も言う事はせず。



馬超が壁を這いながら、の隣へ立った。

二人とも、今はこの窮地を脱する事しか考えていなかった為、馬超は彼女の手を引くと、ジリジリと趙雲達から間合いを取り、死角になった所で駆け出した。



それから。



達がロビーを抜けようとしている時、二階からは派手な爆音と共に、寮全体が揺れた。

どちらが勝ったのかは、分からないが、も馬超も『多分勝者は趙雲だろう』と予測を付ける。

だが、その爆発に甘寧が巻き込まれた事さえ、二人は頭の隅にも入らなかった。



甘寧、哀れ。

そして孫権、君の『漢』は忘れない。

最後に、突然のメンバーチェンジ。



そんな事を考えつつ、涙を流しながら、と馬超は手を取り合って、寮を抜け出した。