[歓迎パーティー・4]
ノリに乗ったカラオケ大会も終わりを告げ、店から出て来るとさっそく趙雲が口を開いた。
「さて…二次会はどうする?」
「何だ?子龍がんな事言うなんてめずらしいな」
すかさず馬超が反応すると、趙雲はクスリと笑った。
「せっかくのさんの歓迎パーティなんだ。もう少し良いだろう?」
「うむ。だがどこか行く宛てがあるのか?」
「そうだな…」
かなりの時間カラオケに篭っていたので、辺りの店はもうほとんど閉まりかけていた。
開いている店はファーストフード店や24時間営業のファミレスぐらいだった。
「飯も食ったしな…。飲食店に入るワケにもいかん」
「じゃあ帰るか〜?」
「なんかもう一声ぐれぇあってもいい気もするな !」
歌い疲れたのか眠そうな孫策と今夜は飲み明かそう的な典韋が騒ぎ始めた中で、だけはある一点へと見つめていた。
「ねぇ…あれ」
近くにいた馬超をつつくと「、お前はどこ行きたい?」と言っているが、の青くなった顔を見て急に真面目な顔つきになった。
「…どうした?」
「あれ…大喬ちゃん達じゃない?」
「む…」
の指差す方を見やると、確かに大喬・小喬がいた。
「ん?どうしたのだこんな時間に」
「寮に戻らなかったのでしょうか?」
「おぁ?本当だぜー!」
「なんか変な奴等に囲まれてるな!夜中にナンパかぁ?」
「バカ!!あれどう見たって絡まれてんじゃん!!」
が怒鳴ると男達は「「何!?」」と言って様子を見る。
見ると、数人のヤンキー系の男達が大喬・小喬を囲んで「オレらとどっか遊びに行かねー?」とか「可愛いじゃん!大丈夫だって、何もしねーからさー」などと下心満点の台詞を吐いている。
大喬は掴まれた腕をイヤイヤして「やめて下さい!」と言い、小喬は「お姉ちゃんを離せー!」と暴れていた。
「助けないと…」
が言い終わる前に、孫策が駆け出した。
「俺の大喬に触るとヒドイぜー!!」
とどこから出したのかトンファーをくるくる回転させながら、ヤンキー達へとツッこんで行った。
「っらぁ!!」
ドカーンと勢い良く突っ込まれたヤンキー達は、派手に切り揉みして吹っ飛ばされた。
「…ウソ…!?」
「おぉ!やるな伯符!!」
「いつ見ても気持ち良いですね」
「やったれやったれ!!」
が驚愕している中、男達は笑いながら孫策に賞賛を送っている。
しかしやられたヤンキー達も黙ってはいなかった。
「っ…てっめぇ!!何やがんだこの野郎!!」
「ブッ殺す!!」
「ただで済むと思ってんのかコラァ!!」
そしてそれぞれの手には、ナイフやバットが握られている。
だが孫策は凶器を見て「物騒なモノ持ってんな〜」と笑っているだけだった。
「ちょっと孫君があぶないよ!助け…」
「いや、いいんですよ」
「何で!?」
凶器が出て『やばい!!』と焦り出すを趙雲がなだめながら、次に馬超がとんでもない事を言った。
「俺達全員が出ていったら、相手が死ぬからに決まっているだろ?」
「え…?」
当たり前の事言わせるな程度の馬超の物言いに、は唖然とする。
「っつー事だ!は大人しく見とけよ!」
がははと笑って典韋もなだめに入った。
「だって…ナイフとか持ってるし…」
「いかに良い武器を持っていても、使いこなせなければ意味がない」
「それに…相手は大人数だし…」
「あの程度の人数なら伯符一人でこなせますよ」
「一斉にかかって来られたら…」
「あいつがんな事でやられるタマかよ!」
尚渋るも、男三人によしよしされてやっと冷静さを取り戻し始める。
男達から言わせると強い孫策だが、どこかは納得出来なかった。
「でも、殴る方も殴られる方も痛いんだよね…?」
がポツリと言ったつもりだったが男達には聞こえたらしい。
「…お前…」
「は優しいのですね」
「…女らしいとこあるじゃねぇか」
と口々にそう言っていた。
「もあぁ言っているからな。加減してやれよ伯符!」
「分かったぜ〜!」
遠巻きに見守る馬超の言葉に、伸びやかな声とは裏腹に孫策は不敵に笑った。
「に怖がられるのもなんだからな!お前ら峰打ちにしといてやるぜ!!」
トンファーを回転させながら余裕の表情でそう言い切った孫策に、ヤンキー達は更に憤慨する。
「なめてんのかテメェ!!」
と凶器をかかげて飛びかかるヤンキーAをひらりとかわし、トンファーの先端で思いきり背を叩く。
「ぐっ!?」
ヤンキーAはそのままもんどりうって気絶した。
「まずは一人目だな〜!次は誰だ?」
他のヤンキー達は、あっと言う間の瞬殺劇に一瞬怯んだが、すぐに我に返った。
「一斉にやっちまえ!!」
ワッとヤンキーB・C・D・Eが凶器片手に襲いかかるも、孫策はひらりひらりとそれを避ける。
そして次々とトンファーでB・C・D・Eをのしていった。
「はっ!軽いぜ〜!」
「見事だ!!」
「やるな伯符」
「わしもウズウズしてきたなぁ!」
「素敵です策様!」
「わ〜い!ありがと策様〜!」
本当に一瞬でヤンキー達を沈ませた孫策に、やんやの喝采が上がった。
クラスメート達が盛り上がる中、が携帯で119番する。しかし繋がる前にの手から取り上げられた。
「あ!ちょっと!」
「言っただろ?峰打ちだ」
馬超がの携帯を高い位置でひらつかせ、ピッと電源を切った。
「だって痛そうだったんだもん!救急車呼ぶだけだってば!」
「呼ぶ程でもない」
「それにニブい音してたっしょ!」
「音だけで怪我と言う怪我もしてませんよ」
横から趙雲が入り、の背中をさすった。
「んー…」
趙雲にまで言われては納得せざるをえないだが、やはり沈められたヤンキー達が心配でならない。
そこへ見事な瞬殺劇を繰り広げた孫策が、寄って来た。
「大丈夫だぜ!怪我しないよう、痛くない様に気絶させただけだからよ〜」
「…ならいいんだけど…」
相手に怪我がないなら別にいっか、とは思い直し納得した。
「で、どこ行くか?」
「どこって…」
喧嘩した後にどこに行くもないだろと思ったが、めんどくさいので他にまかす事にした。
「…どこでもいいよ」
「なんだ?疲れちまったか?」
典韋が心配そうにの顔を除き込む。
「精神疲労かも…」
「お前そんな繊細な女かよ?」
「ほっといてよ」
馬超の冷やかしもさらりと流し、はフラフラと歩き出した。
「おい!どこ行くんだ!?」
「ボーリング」
とりあえず適当にどっか行きたいと思ったは、ボーリングと提案した。
「馬っチ、おごってよ?」
「…まぁ、お前の為のパーティーだしな」
しかめ面をする馬超をじろっと見て、やったと声を上げる。
「何ゲームやろっかなー」
「…仕方ない。好きなだけ遊べ」
「やったー!」
『本当に似ているな…』
ぴょんと跳ねるを見つめて、馬超は少し心が暖かくなるのを感じた。
「俺は大喬と小喬を寮に送ってくから、ここで帰るぜ〜」
「そんな…策様、私達平気ですから…」
「大喬!お前は俺が守るぜ!」
「策様…」
いつのまにかバカッポー達は見つめあい「さぁ帰るぜ!」「はい!」と話がついていた。
その横では小喬が「お姉ちゃん良いなー、ラブラブだ〜!」と羨ましがっている。
「わしも帰るな!」
カラオケで大分飲んでいた典韋もそろそろ限界が来たらしく、ここでギブアップしていった。
「子龍兄は?」
皆一気に帰ってしまうと思ったが問うと、趙雲は笑顔で答える。
「私はお供しますよ」
「やったー!!」
「俺と二人きりはイヤなのか?」
の喜び様に馬超は怒りを通り越して虚しさを覚えるが、小声で言った為か誰にも聞こえることはなかった。
「んじゃ〜な〜!」
「また明日な!」
「おやすみなさい、馬さん、趙さん、さん」
「ちゃんバイバ〜イ!!」
手を振って帰っていく帰宅組に軽く挨拶を返すと、趙雲が小声でに囁く。
「、ボーリングではなくどこかに飲みに行くというのはどうかな?」
「え?わぁ!賛成!!」
「む?ボーリングはやめたのか?」
「うん、子龍兄の案で飲みに行くって事にした!」
「では行きましょうか」
ルンルンと楽しそうなの背中を趙雲がさする。
馬超はその行為にムッとするが、楽しそうにしているを見ていると怒る気も失せたのか「とりあえずどこか店に入るぞ」とだけ言って歩き出した。
こうして入学初日の楽しい夜はふけて行った。