在学編


[お見舞い(ダチ編)]




VS馬超・趙雲の、逃亡話の翌日。

は、その時の功労者達の所へと、見舞いする為向かっていた。



と言っても、場所は保健室。

校内爆発や寮内爆発はいつもの事らしいので、警察沙汰にはならなかったのだ。

それはそれで、この学園のデンジャー度が如何に高いかを物語ってはいるのだが、はあえて「いつもの事ですから、気にしなくて良いですよ」と、笑顔で言ってくれた趙雲の言葉を聞き流した。



今回の負傷者は、4名。



火の精霊により『貴方なら大丈夫です!』という呪縛にかけられ、自らを盾とした姜維。

先祖代々伝わる秘伝の火薬調合法により、追撃者達を爆破に巻き込んだは良いが、成人男性2名を甘く見たのか大爆笑中に後ろからド突かれ、爆破後に放置された陸遜。

を売り渡す事など、漢として出来ようか!?』と、一番危ない状態の趙雲(煙草吹かし付き)にわざわざ喧嘩を売り、見事返り打ちに合った孫権。

そして、『結局の所、お前ずっと走ってただけじゃん』と、馬超に冷たくあしらわれてしまいそうな、趙雲VS孫権の被害者(?)甘寧。



以上、の逃亡劇に生きざまを見せた、『漢』達である。










がまず手始めに向かったのは、暗黒面に身を落としてしまった兄を止めようと、果敢にも立ち向かい華麗に散った孫権と、その戦闘に巻き込まれた走り屋甘寧の元。



ちなみに、保健室は『この学園は良く負傷者が出る』という理由だけで、ベッド部屋だけで5室もある。

各々の部屋には5つずつ配置されているのだが、保健の先生馬岱の配慮で、孫権・甘寧のペアと、陸遜・姜維のペア、という部屋分けがされている。

何故二人一組に分けられているのかは、全く分からない。



ついでに言えば、負傷者が多過ぎてベッドが足りない場合は、適当に床に放置。

劉備校長の元、学校全体が放任主義なのだ。



乱闘騒ぎの主犯格として全員をボコボコにした趙雲は、「見舞いが終わったら私の部屋に来なさい」と言っていたので、お部屋待機。

馬超は「iPo○の調子がおかしい」と言って、本日はアキバ入りなので顔は見れない。

なんでアキバやねん、お前実はアキバ系か?とか思いながらも、は病室扉を叩いた。



コンコン。



相手二人は起きていたらしく、すぐ様「誰だ?」「いいぜ、入れよ」と返答した。

なので、は苦笑いしながら扉を開けた。



「な……、何故ここに!?」

「はは、何だよお前、見舞いにでも来たのか?」



愛しの女性からの見舞いに、まず驚いて目を見開いたのは孫権。

流石に学園内での殺戮ショーは禁止されているのか、刃のない槍でボコられた体は、診断結果として『全身打撲及び肋骨骨折(2本)』。

中々の重体チックだが、この学園が学園だけに、保険医馬岱が出した答えは「2〜3日安静にしていれば、すぐ直ります」らしい。



そして、フラれ組第一号甘寧は余りの嬉しさに、右足骨折を無視した華麗なダッシュで走り寄り、を抱きしめた。

瞬間、コンマ単位で覇王化した彼女の右ストレートがモロに入ったが、そこは走り屋甘寧。

それを見事に受け止めて、「流石俺がホレた女だ!」と鼻と口から赤い塊を噴出しつつ、拳をグッと握り締めた。



「ところで、どうしてここへ?」

「え、いやぁ…………迷惑かけちゃったし、こんな大怪我させちゃったしで………」

「なんだよお前、んな事気にしてんのかよ?」



嬉しくも不思議そうな顔をして問う孫権に、は気まずそうに答える。

それを「気にし過ぎ」と豪快に笑いながら、甘寧がその肩をポンポンと叩いた。



。余り気にしないでもらいたいが…………」

「んな事出来るワケないじゃん!皆、身体張って逃亡に協力してくれたのに……」

…………………お前………………」



苦笑ながら「そう言えばガムがあったから、にやる」とゴソゴソし始めた孫権。

それに唇を尖らせて「本当、ごめんね?」とが言うと、何故か甘寧が目をキラキラさせている。

「な、何なの?」と問おうとするも、更に甘寧は彼女を抱き締めようとした。



ーーーーーーーー!!!愛してるぜ!!!俺の女!!!!!」

「やだもう興覇ったら、何言ってんの!!」



グシャッ!!



「ッ!!??」



ぐしゃって何!?と孫権が視線をやると、そこには彼女のかかと落としを盛大に脳天に頂いた、甘寧の無惨な死体(仮)。

頭からはドクドクと赤いものが流れ、よくよく見ると白目を向いている。

口からは泡が溢れ、それを見ては「そんな簡単に落ちないでよー」と笑っていた。



そろーっと彼女を見上げると、目が怖い。

何かに取り付かれたような、何か神でも降ろしたのか!?と思ってしまうような。

くすくす、と妖しい光を瞳に称えて「ほら、見舞い来たんだから起きなよー!」と、尚も甘寧の頬に往復ビンタをかましている。



意中の女性から見事止めを刺してもらえた甘寧に、孫権は影で涙を流しながら、心で合掌した。










それから、逝った甘寧を放置して、孫権はと二人で話をした。



あの後馬超と和解して、趙雲からお尻ペンペンされた事。

ペンペンは全然痛くなく、趙雲のお慈悲がかかってたのかもしれない、と思った事。

ちなみに、今朝馬超と会った時、その左顔面には『誰か』に殴られた跡が残っていた事。



それらを話し終える(馬超の話の時点で、孫権の顔は青ざめていた)と、は一息ついた。

だが、すぐに何やら思い出したらしく、持っていた鞄から何やら包みのようなものを取り出す。

そして、それを甘寧の枕元にそっと置くと、次に孫権に包みを手渡した。



「これは……?」

「ん………お詫びの品」

「それなら、もらえない」

「なんで?」



としてみれば、自分を庇ってくれた彼等にせめてもの詫びとして渡したかった物。

しかし、孫権はそれを突き返すように、頑として受け取る事を拒否した。



「もらえない物は…………もらえない」

「どうして?もらって欲しいのに……」

「私は損得を計算して、お前を助けたわけではない。お前が………」



と、ここで彼はドモった。

が顔をあげると、そこには耳まで真っ赤になった孫家次男の姿。

何やらゴニョゴニョ言っているが、小さ過ぎて聞こえない。



「なに?あたしがどうしたの?」

「いや………その…………お前が…………」



孫権としては、このシチュエーションが『告白する空気だ!』な感じらしく、迷っているようだ。

しかし気持ちとは裏腹に、言葉が全く出て来ない。



どうしよう、どうしよう、どうしよう!!

告白したいけど、言葉が上手く出て来ないよぅ!!

孫権仲謀、生まれてこのかた告白なんてした事ないから、どうしたら良いのか分かんない!!



そんないっぱいいっぱいな彼を尻目に、は内心『熱でもあんのかな?』と思った。

なので、さりげなく彼の額に手を当てる。

すると、彼は相当驚いたのか、目を一杯に開いてを凝視する。



「え………な、なに?」

「い、いや何でも…………ない」



またもモジモジし出した彼は、どんどん熱が上がって行く。

恋熱だと言うのは簡単だったが、彼の純情度が空回りして、その言葉を上手く口に出させてはくれない。



「熱……かなり高いよ?」

「そ、そうか!?」

「岱先生呼ぼうか?」

「い、いや!!!モーマンタイだ!!!!」



何故カタコト?と眉をピクリ動かしつつ、はス、と手を離した。

不意に欠伸が出てしまい、彼女は苦笑いをしながら「でも、これは受け取ってね」と孫権に再度手渡す。



、私はこれを受けと………」

「怪我させたお詫びと、あたしの御礼の気持ちだから!返品不可能です!」



突き返される前に、と彼女はすぐに鞄を手に「岱先生呼んでおくから!」と言って、部屋を出て行った。

それに一瞬唖然とする孫権。



「………………………………………………………ハッ!?」



逝きかけた思考が現実に戻って来たのは、それから5分後の事だった。

そして、告白も出来なかった自分に対し、情けなさが沸き上がる。



「私は…………何とも情けないな……………」



ふぅ、と一つため息を零していると、先程彼女が置いて行った包みが目に入った。

お詫びと御礼の品。

一体何が入っているんだ?と手に取り包みを剥がすと、そこには。



以前、「お前が付けるには、少し男っぽくないか?」「これが格好良いんじゃん!」という会話の中心だったはずの、彼女がいつも身に付けていた、鳥の羽をモチーフにした銀のペンダントヘッド。

そういえば、「権が付けても似合うと思う」と笑顔で言っていた気がする。



御丁寧にもチェーン付きのそれに付属されているのは、名刺大のメッセージカード。

カードには『ごめんね、こんなものしか上げられなくて。助けてくれて本当に嬉しかったんだ』という、彼女らしい愛しさが込み上げてしまうメッセージ。

思わず笑みが溢れてしまう。



ふと、甘寧の枕元に置かれているそれが、気になった。

しかし、包みを剥がして盗み見る、という行為に自ら「いかん!それはいかんぞ!!」と首を振り、阻止しようとする。

だが、見たいものは見たい。



もしかしたら、自分へ宛てたメッセージよりも、甘寧へのメッセージがツラツラと長かったら?

『私も、愛してる』なんて事が、万が一でも書いてあったら?

もう生きる気力がなくなってしまう!!!



天使と悪魔の囁きの境で苦しむ男、孫仲謀24歳。

やばい、俺このまま起きてたら、絶対やばい!!

どの時代、どの国、どの人間でも、葛藤はするもので。



結果、彼は人としての尊厳を味方に付け、自らの鳩尾を自らで(容赦なく)殴り、もんどり打って気絶した。



彼(等)の春は、まだ……………………………………………………遠い。