在学編


[お見舞い(ブラザー編)]






孫権・甘寧の見舞いを終え、が次に向かったのは、姜維・陸遜の収容されている部屋だった。

その前に、馬岱先生に病状を聞きに行ったが、それを聞いただけで兄(趙雲限定)が如何にブチ切れていたのか理解した。



第一の犠牲者である不幸な青年姜維は、馬趙二人にボコられた為、怪我人の中でも一番に、集中治療室行きでもおかしくない。

肋骨を数本持っていかれ、両手両足は骨折、だが幸い何故か顔だけは無傷という、実に不思議な負傷具合だった。



実は、『彼等の顔に傷を付ければ、が黙っていないだろう』と思った馬趙コンビが、体だけを攻撃したと噂されている。

可愛くて優しくて多少やんちゃな弟達の顔に傷でも付けられた日には、あの都市伝説と化した彼女の裏の顔(覇王)が目を覚ましてもおかしくない、とでも思ったのだろう、多分。

そして挙げ句『二度と近寄んな』と言われたらもう生きては行けない、というラブリな兄心から、兄貴コンビは顔だけは免除してやるぜ的に、その分体をボッコボコにしたのだ。



だが、恐ろしいのはそんな事よりも・・・。

「大丈夫、あれぐらいの怪我だったら、2〜3日大人しくしていればすぐに治るから」と笑顔で言っていた馬岱先生。

あの時の、本当に『ニコニコ』という形容が正しい笑顔は、心からの笑顔だと分かっていても怖かった。

っていうか、あんた凄腕の医者(BJ並み)なんじゃ?と心の片隅を過ったが、そこは無双学園だからきっとそうなのだという結論で無理矢理納得してみた。



そして、その姜維を影でボコられ一番指定に任命した少年もまた、彼と同じ部屋であった。

しかし彼は頭部を殴られただけで、怪我と言う怪我はなかった為自部屋静養でも良いと診断されたらしいが、その馬岱の申し出を笑顔で断わり「さんが見舞いに来てくれるはずですので、私だけ部屋で静養するわけには行きません」と、半ば無理矢理姜維のベッドの横に付けたのだ。



そんな事柄を知らないは、お見舞いの品(孫権達にも配ったやつ)を手に、ココンとノックをして部屋へ入った。










さん!!」

「伯言、大丈夫?」



彼女の登場を今か今かと待っていたのか、すぐに顔を明るくしたのは陸遜だった。

彼は心配してもらいたいが為に、頭を包帯でグルグル巻きにしている。

それを見たは、心底申し訳なさそうに眉を下げた。



「ごめんね伯言……あたしが『助けて』なんて言ったばかりに………」

「いいえ、さんが気にする程の怪我ではありませんよ!」

「でも………」

「これは私の勲章ですから!」

「本当、ありがとう………………………伯約は?」



そう言ってが視線を動かした先には、いかにも『集中治療中』と意思表示出来るぐらいの、カーテンで覆われた一角。

あそこで多分、姜維が眠っているのだろう。



かなりの重体だと聞いたは、泣きそうな顔で陸遜を見つめた。

しかし。



「あぁ、伯約殿でしたら御安心を。ちょっとお待ち下さいね」

「え、あっ…………」



心配そうなに、陸遜は笑顔を向けると、そのままカーテンで覆われたベッドへと足を運んで行った。

カーテンに遮られ彼女からは全く見えないが、その中では「ぐっ!?」とか「うはぁ!!」とか妖しい声が聞こえる。

なにナニ禁断のBL!?と思うのも仕方ないが、実は違ったらしい。



次の瞬間には、陸遜がシャッと勢い良くカーテンを開けて、にっこり笑って「どうぞ」と言っていた。

一体中で何があったんだ・・?と思いはしたが、口に出したらそれはそれで禁断な質問な気がする。

故に彼女は、引き攣った笑みを零すと、姜維専用ベッドへと足を運んだ。










「あ、さん!来て下さったのか」

「伯約!!」



意外にも元気そうに体を起こして笑っている姜維に、思わず抱き着く。

彼は途端顔を真っ赤にして、どうしたら良いかと両手を宙に迷わせていたが、の肩が震えていると知るとゆっくりと抱きしめた。



「良かったーーー!!重傷だって聞いたから、死んじゃった日にゃあ、あたしが腹裂いてお詫びしようかと……」

「な………そこまで重傷ではありませんよ」

「だって両手両足骨折って………」

「あぁ、手だけでしたら、先程治して頂きました!」



・・・・・・・・・先程?

骨折って、瞬時に治せるもんなのか?



身を離し、ゆっくり顔を上げると、ニコニコと笑っている姜維の綺麗な笑顔。

それに引き攣った笑いを返しつつも、が次に見つめたのは、陸遜。

も、もしや・・・・・・。



「えぇ、我が陸家に伝わる秘伝のツボ押しで、たった今完治させて頂きました!」

「………………」

「流石は伯言殿です!是非この不肖、伯約にも教えて頂きたいものです!!」



不肖じゃなくて、あんた負傷じゃなかったのか?

しかも、かなり重い感じで。

そんな突っ込みを入れてやりたかったが、問題はそれではない。



いつか、『陸は名家のボンボン(馬超調べ)』と聞いたような気もするが、その名家とやらにはとんでもない秘術が伝わっているらしい。

ケンシ○ウも真っ青な秘功技術には、ケ○シロウでないなら顔面蒼白。

しかし、それはあえてスルーした方が良いと判断したので、彼女は「そ、そうなんだ」と口元をピクつかせつつ、目を泳がせ話題を終了した。

だが、そんなの懸命な判断を、陸遜は一瞬にして打ち砕く。



「宜しければ、さんにも我が陸家特製、秘功拳を教授させて頂きたいのですが・・・」



いえ結構ですと断わる前に、姜維がそれを遮って「それは良い考えですね!是非さんも、私と一緒に伯言殿から学びましょう!」と言われ、頷かざるを得なくなった。

渋々、と言った感じで頷いてはみたものの、それを馬趙コンビが知ったなら、陸姜美少年ズに制裁を加える事間違いなしだろう。



何故なら、にそんな事吹き込んで欲しくないから。

可愛く愛しい妹分には、か弱いままで居て欲しかったのだ。

それに、覇王というだけでも意外な一面発見☆なのに、それプラス秘功拳なんてシャレにならない。



しかし、彼等は今いない。



これで断われば良かったものの、姜維の「さんも絶対に教えて頂いた方が良いと思います!」との光度120%笑顔で言われてしまったら、断わる気さえ失せてしまう。

というか、彼女自身段々とノッて来たらしく「じゃあやってみよっかな」と楽しそうだ。



かくして、それからは『助けてくれてありがとう感動トーク』ではなく、何故か『瞬時に敵を殺れるツボ』から始まり、『骨折の治し方』『秘功と気功の違い』『健康体で過ごす為には?』などなどの医者真っ青な授業(?)が繰り広げられた。



陸遜や姜維にとっては、自らが身を守る為の術をマスターしてくれたので、大変御機嫌。

しかし兄貴ーズにとっての『守ってやりたい』者が、実は『覇王+ケンシロ○』になってしまった事を知るのは、まだ少し先のお話。