珍・学園無双〜外伝〜

〜 雨の日と月曜日は・2 〜






誕生会を始めようとしたが、場所を決める事で問題が起きた。

馬超は自分が言い出しっぺなので俺の部屋だと言い、孫策はカラオケ、典韋は飲み屋と言い張る。

姜維と陸遜は二人とも同意見で、レストランでの食事。

唯一趙雲だけは苦笑しながらその事態を見守っているのだった。



「纏まんないんだけど……」

「放っておけば、その内納まりますよ」



留年三人衆と美少年コンビが自己主張をし合う中、が溜め息を付いた。

それを、趙雲が背を撫でながらヨシヨシする。



「俺が最初だぞ?ならば必然的に俺の部屋になるだろう」

「カラオケしかないぜ〜!歌って盛り上がる、これしかね〜だろ〜?」

「そんだったら飲みのが盛り上がるだろうが?」

「いや!やはりさんの誕生日は少し高級感があるレストランが………」

「そうですよ!せっかく私達が予約しておいたのですから……」



の溜め息も耳に入らないのか、男達は実に勝手な事をほざいている。



「どうしよ、子龍兄………」

はどこに行きたいんですか?」

「あたし?うんとね〜……」



そこで考え込んだを見ながら、趙雲は苦笑する。



が行きたい所なら、皆それで良いと思いますよ?」

「んん…そうだな〜。あたしは…月見酒とかしたいかな」

「月見酒、良いですね」



今日の主役はあくまでと分かっていたので、彼はそれを皆に伝えるべく、パンッと手を叩く。

それに我侭男5人組みが一斉に振り向いた。



「えーっと……は月見酒がしたい様なのですが、いかがでしょう?」

「月見酒?」

「お〜!何か良いかもしれないな〜」

は以外とオヤジ臭ぇんだな!」

「まぁ…さんがそれが良いなら私は構いませんが……」

「月見酒、素晴らしい発想ですね!焚き火でもしながら…と言うシチュエーションはいかがでしょうか?」



上から趙雲・馬超・孫策・典韋・姜維・陸遜である。

皆も彼女が主役だと分かっていたので、争いはそこで終わった。

唯一、陸遜が美少年スマイルでT焚き火″と、怪しい臭いのする表現をしたのは誰も聞かなかった事にされる。



「皆で月見ってやってみたかったんだ〜!」

「良かったですね、

「えへへ〜!」



皆が渋ると思っていただが、以外とすんなり決まった事に喜びを隠せない。

趙雲は趙雲で、デヘヘと笑う彼女の頭を撫でていた。



「でも夜まで待つの面倒臭いぜ〜?」

「だなぁ。それまでどうすんだよ?」



そんな彼女に突っ込んだのは孫策と典韋。

今日は授業が早めに切り上げられるので、それから夜までつまらない、と言いたげだ。

それに姜維と陸遜が続いた。



「というか、会場はどちらに致しますか?」

「そうですね。確かに会場が決まってないと……」

「あ〜そっかぁ」



4人に突っ込まれてしまう形となったは、正直悩んだ。

月見はしたいが、見どころとなる高い位置にある場所等知らない。

ここら辺は特に高い場所もなく、あっても二階建ての家等があるだけだ。

そんな彼女の考えに気付いたのか、趙雲が口を開いた。



「では……ここの屋上はいかがですか?」

「え?屋上?」

「えぇ」



趙雲はクスリと笑い、の頬をなぞった。

その行為に馬超がムッとしたが、何かを言われる前に彼が続ける。



「この学園はこの辺で唯一高い建物ですしね。」

「う〜ん…でも……許可がないといけないんじゃないの?」



瞬間、趙雲の目がキラリと怪しく光った。

そして何を思ったのか、早口に淡々と喋り出す。



「それに劉先生に許可さえいただいておけば、あの方の事だ。『生徒同士の交流ならばいつでも使いなさい』とでも言って、すぐに許可を出してくれるはずです」

「そ、そうかな?」

「そうですよ。可愛い生徒の頼みですからね」

「じゃ、じゃあその方向で……」

「分かりました。では私は早速許可をもらいに行って来ますので」

「う、うん……行ってらっしゃい………」



彼女を思う趙雲にかかれば、劉先生もただのダシにされてしまうらしい。

そう言った教室を出て行った彼の、一瞬チラリと見えた黒い部分を見てしまったは、目を泳がせながらもお願いした。



「やっぱり……黒だ………」



そう呟いたの言葉は、幸か不幸か誰の耳にも届く事はなかった。










趙雲が言った通り、劉先生からすぐに『使用可能』の許可が下りた。

授業を終えて一旦各自部屋に解散し、約束の時間には寮のロビーに集まる。

全員集合した所で、校舎の屋上へと上がった。



「うわ〜!綺麗だねー!」

「でしょう?」



屋上から見えるのは、満月。

今宵は丁度その日だったらしく、見る者を思わず魅了する。



「綺麗だね、馬ッチ!」

「ん?おう」



先程から一向に口を開けなかった馬超に同意を求めながらも、月からは目を離せない。



「お〜い!早く飲もうぜ〜?」

!早くこっち来い!」

「これは……何とも美しい月です!」

「誰もが魅了されてしまいそうですね」



の隣で一緒に月を見上げている趙雲と馬超以外は、すでにポジション決めに入っていた。



「行こう!こういう日は飲まないと〜!」

「そうですね」

「おう」



そう言いながら、彼女達も席に着いた。



「じゃ〜。の誕生日を祝って〜……」

「乾杯!!」



仕切ろうとする孫策を押し退けて乾杯の音頭を取ったのは典韋。

それに続き「おめでとう」とにそれぞれ祝いを述べて、先程姜維と陸遜がコンビニで買って来たチューハイやら焼酎やらを一気に煽った。



「くぁ〜!」

「たまんねぇなぁオイ!」



早速孫策と典韋がツマミに手を伸ばしながら、お喋りを始める。



「本当に目出たいです!」

「とても良い月ですし…今宵は最高ですね!」



と美少年コンビも御機嫌は上々だ。



「皆、ありがとね〜!」



それらを楽しそうに見ながら、もお礼の言葉を言う。



「あはは!伯約顔赤いんだけど〜?」

「え?あ、私すぐに顔に出てしまうんですよ……」

「若いから新陳代謝が良いんだよ」



と言いながらが笑っていると、その隣を占領していた馬超が「それは俺に喧嘩を売ってるのか?」とボヤいていた。



「それより、はいくつになりました?」

「え!?それは………女に聞く台詞じゃないなぁ〜」

「ふふ……失礼でしたね」



クスリと笑いながら軽口を叩きあう趙雲とに、今度は孫策が横槍を入れる。



「大喬は17だぜ〜?」

「うっさい孫君。それあたしに喧嘩売ってる様にしか聞こえないから」

も十分若いと思うぜ〜?」

「おだまり!取って付けた様なフォローすんな!おたくの彼女引き合いに出されたら、ヘコんじゃうっつーの!」



そんな二人の会話が面白かったのか、他の面々が笑い始める。



「拗ねる事ないだろ〜?」

「言われてムキんなるってのは、認めちまってる証拠じゃねぇか?」

「孫殿に典殿、あまりその様な事は……」



姜維意外に余りのからかいを受け、それに拗ねたは「失礼な…」と言いながら頬を膨らませた。



も十分若いだろう?」



と助け舟を出してくれたのは、以外にも馬超。

だが、以外と言われてしまうのは余りにも可哀想な事に、彼はよく言葉につまったを援助してくれている。

それに感謝しつつも、彼女は拗ねたフリを続けた。



「皆、そこら辺にしないか。今日の主役はだぞ?」



苦笑しつつも趙雲も馬超の言葉に相乗りになる。

それで、周りは笑いながらも彼女をからかうのをやめた。



「もういい!」

「出たぜ〜。お前の口癖だぜ〜!」

「お前、しょっちゅうんな事言ってて疲れねぇか?」

さんの口癖なんですか?」

「ふふ、拗ねた時に言う台詞ですよ」

「ふん、馬鹿の一つ覚えだな」



思わず口癖のTもういい!″を出してしまった事によって、更に彼女はからかわれるハメになった。