珍・学園無双〜外伝〜
〜 雨の日と月曜日は・3 〜
「えへへ〜」
「!?」
が皆にからかわれている中、どこからかおかしな笑いが聞こえた。
それにいち早く反応したのは馬超。
「ん、何だ?…………………………陸!!」
「え、何なに?………あっ伯言何やってんの!!」
馬超が声のした方を見ると、そこには陸遜が。
もそれにつられてそちらに目をやったが、陸遜の霰もない姿に思わず声を上げた。
「うふふ…熱いれすぅ〜」
先程の一杯で酔ってしまったのかすでに泥水状態の彼は、上着を脱ぎ捨て上半身裸の状態でフラフラと飛び下り自殺もどきをかまそうとしていた。
陸遜は酒が弱い。
それは新入生歓迎会でも分かった通り、飲んだら飲んだだけベロベロになってしまうという事。
歓迎会の日は酔ったの勧めもあった所為で、かなり飲まされていた。
だが、その時はかなりの泥水状態だった為、自分が酔わせた事など何も覚えていなかった。
そして唯一それを素面の状態で見ていた姜維も、偶然にもその事をド忘れしていたらしく、今回陸遜が酒を飲むのを止められなかったのだ。
「えへへへ〜!」
「ちょっとぉ伯言!」
今まさに飛び下りんとしようとした彼を後ろから羽交い締めにしたのは、だった。
「あうぅ……苦しいれす〜!」
「バカ言ってんじゃないの!」
羽交い締めの体勢からヘッドロックに決めながら、陸遜を叱咤する。
すると何を思ったのか、彼が急にへと向き直ると、いきなり抱き着いた。
「ぅわっ!!」
「さ〜ん!暖かいんれすね〜」
全身の体重を乗せられる様に被いかぶさられたは、堪え切れずにその場に尻餅をついた。
そんな事にはおかまいなしに、陸遜は更に腕に力を込めてギュッと抱き着く。
「ちょっ……伯言……」
「あはは〜!女の人って柔らかいれすね〜」
「はぁ……あんた……下戸だったんだ」
「ゲコれすか〜?クスッ!」
呆れた様に溜め息をつく彼女の問いを聞いているのかいないのか、彼は小さな声でクスクス笑う。
そこへ、その二人の体勢に我慢ならなくなったのは馬超と趙雲だった。
「おい!とっとと陸の腕を外して離れろ!!」
「陸殿、良い度胸です…………」
馬・趙の参戦に、モブっていた他の男達(孫策・典韋・姜維)はちょっと焦り始める。
彼等二人は命と言っても過言ではない。
むしろ彼女がいないと学校生活が面白くない、とまで言っている程である。
いったい何が彼等をそう言わしめるのかは、事情を知らない周囲は全く理解出来ないだろう。
だが至上主義の二人を怒らせれば、いくら酔って何も分からない状態だったからとはいえ、陸遜は翌朝には園内の池にプカリと浮いているという予想は出来る。
「孟起に子龍〜そんな怒るなよ〜」
「そ、そうだ。んなに怒ってっとが引くだろ?」
「そうですよ、お二方……伯言殿も酔っていらっしゃる様ですし……」
「伯符、邪魔だ」
「典、姜殿。退いていただけませんか?」
孫策が馬超。典韋・姜維が趙雲。
そういった構図でモブ三人が二人の行く先を防ごうとするが、当の本人達はすでにバトルモード状態だ。
しかし、それを咎める様に横から声が上がる。
「皆さん、煩いれすよ〜!」
全員がそこへ目をやると、ニコニコヘラヘラとを抱きしめながら嬉しそうに笑っている陸遜の姿。
その事態を引き起こした本人に言われたのがムカついたのか、美声年コンビがキッと彼を睨み付けると、更に慌ててモブ三人が彼等を抑える。
だがそんな事はおかまいなしに、陸遜は喋り続ける。
「皆さん〜折角のさんの誕生日なんれすから〜。喧嘩なんかしてはいけません〜!」
ひらりと手を振って彼等に説教をする17才。
全員が「お前に言われたくねーよ」と思ったのも頷けた。
「さ〜ん!」
「はいはい」
すでに怒りゲージ満タンの二人に、もう溜め息を付くしかできない三人。
そして困ったちゃんの酔っぱらいに、その背中を抱き着かれながらも撫でてやる女性一人。
外から見たら、きっと凄い微妙な光景かもしれない。
その微妙な空気をブチ壊してくれたのは、やはり馬超この人だった。
「分かった。分かったから陸、から離れろ」
「え〜?嫌れすよ〜!」
「っ!?貴様………」
少し大人になって一歩譲った馬超だったが、陸遜のその一言にかなりキレそうになる。
手にはいつ取り出したのか分からないが、すでに彼の獲物が握られている。
「陸……覚悟は良いな?」
「わたしはぁ!さんと一緒に〜話したかったんれすぅ〜!!馬殿にはカンケーないじゃないれすか〜?」
ブチィ!!
何故かその会話を横で聞いていた趙雲の中で、何かがマジギレする。
陸遜の男らしくない喋り方にでもムカついてしまったのだろう。
瞬間、彼は「はぁっ!!」と跳躍し、陸遜に向かってやっぱりどこから出したのか分からない愛槍を振り下ろした。
キィン!
見事に決まったかの様に見えた彼の一撃は、陸遜がふいに取り出した双剣で弾き返される。
「何をするんれすか〜趙殿ぉ!さんに当たったらどうするんれすか〜?」
呂律が回らないながらも陸遜の剣捌きは見事なもので、クルクルと指でそれらを器用に回す。
そして急に目がマジになる。
「趙殿ぉ!さんに傷でも付けたら〜。この陸伯言がぁ、許しませんよぉ〜!」
変わらず呂律がおかしかったが、目だけマジだったので趙雲も武器を構え直す。
酔っぱらい美少年vs命美青年の、好カード対戦だ。
しかしそれが始まる前に、の雷が炸裂した。
「ちょっと!!いい加減にしてよね!!あんたら人の誕生日祝う気あるワケ!?」
先程から黙っていたが、段々とムカついてしまったのだろう。
は拳をプルプルさせながら男達を睨みつけた。
「……私はその様なつもりでは………」
「うっさい!黙れ子龍兄!!」
「うっ…………」
最愛の妹分の罵声を受け、趙子龍はここで撃沈した。
「伯言!!」
「はぁ〜い!」
「あんたも武器しまいなさいよ!!」
「はぁ〜い……」
酔っぱらいだと言う事も忘れているのか、次にその怒りの矛先となったのは陸遜。
元々には素直な良い子なので、彼は言われた通りすぐに武器をしまう。
それを見届けた彼女は、お次は孫策・典韋・姜維をキッと睨みつける。
「あんたらそれでも男なの!?バカみたいに見てないで、止めなよね!!」
「悪かったって〜。怒んなよ〜?」
「す、済まねぇ……」
「申し訳ない……」
いつもは見せない彼女の睨みに男三人はビビり、硬直した。
そして最後はやっぱりこの男。
「それと馬ッチ!!」
「……………おう」
にギロリと睨まれて少し縮み上がるが、それを表に出す風もなく間を空けて答える。
「あたしはあんたのモノじゃないんだから、いちいち目くじら立てないでよ!!」
「………だが」
「口答えすんな黙れ」
「……………」
更に女らしからぬ低い声で言われ、恐ろしさの余り思わず唾を飲み込む。
一通り説教して気が済んだのか、はフゥと一つだけ息を吐くと、呆れた様に飲んでいたスペースに戻った。
「喧嘩なんかやったって良い事ないでしょうに。全く………」
皆に聞こえる様に独り言を呟き、飲みかけのサワーを口に含んだ。
「せっかく誕生日してくれて、すごい嬉しかったのにさ……」
その一言が、その場に居た全員の胸に突き刺さる。
『このっ!子龍……私はの目の前で何たる事をしたのだ!!』
『何か目の前がボーっとして来ましたぁ〜』
『がこんなに怒るなんてめずらしいな〜』
『わしぁ男らしくないな……』
『あうぅ……さんに嫌われてしまったかもしれない……』
趙雲・陸遜・孫策・典韋・姜維が心の中で各々の自問自答をしていると、何を思ったか馬超が急にのそばに寄り、彼女の腕を引っ張った。
「?何よ?」
「来い」
何かと顔を顰めたの腕を強引に引き、有無を言わさぬ表情でそのまま屋上から連れ出した。
『……私に幻滅してしまったのか!?私は…私は!!』
『頭がフラフラしますぅ〜』
『大喬今何してっかな〜?』
『男らしくねぇ!俺は…男らしくねぇんだ!!』
『さ〜ん!私は…あなたに嫌われてしまったのでしょうか!?』
もちろん自分の考えに夢中のこの5人はそんな事には気付かず、彼女と馬超が居ない事に気付くのはこれから約2時間後の事である。



