珍・学園無双〜外伝〜

 〜 PU RI KU RA・3 〜






孫策が孫権達を呼びに走った後、は休み時間を利用して、一人馬超の部屋へと向かった。

最初、二学年の教室に戻っていると思ったのだが、教室に姿が見えなかったのでまだ馬超の部屋にいると考えたのだ。



馬超の部屋の前に着き、インターホンを鳴らす。

すると、すぐに部屋の主が顔を出した。



か……どうした?」

「あっと……あのね………」

「俺の見舞いか?」

「え…それもそうだけど……」



意外に症状は重くないのか馬超の顔色は悪くなく、至って健康体そのものに見える。

彼はてっきり自分を見舞いに来たものと思っていたのか、の微妙な返事に顔を顰めた。



「何なんだ?」

「いや……子龍兄居るかなと思って………」

「……………ちょっと待ってろ」



用件が自分でなかった事が面白くなかったのか、馬超は少しムスッとしながら部屋へ戻って行く。

暫く待っていると、趙雲が顔を覗かせた。



?どうしたんですか?」

「あ……あのさ」



彼はだと分かると顔色が悪いながらも微笑むが、しどろもどろな態度に何事かと首を傾げた。



?」

「あのね……良かったら……ゲーセン行かない?」

「………は?」



趙雲は唐突な彼女の申し出に、思わず声が裏返ってしまった。



先程、馬超に今朝見た夢の話をしている途中、いきなりが呼んでいると言われ出てみれば、ゲーセンに行かないかと言われる。

いったい何を考え、そんな事を言っているのか。

全く意図が分からず只口をポカンと開けていると、はモジモジと体をくねらせながら彼を見上げた。



「だからね……なんちゅーかさ。今日元気なかったじゃん?」

「?…………あぁ」



そのの言葉に、趙雲は『そう言う事か』と思った。

多分教室を出て行く時、自分はそうとう焦りを出していたのだろう。

思い返すと、授業そっちのけで教室を出て来て、今までずっと馬超の部屋に居た。



そんな彼らしくない行動を、趙雲を慕っているが心配するのも無理はない。

それより逆に、趙雲は彼女に心配をかけてしまった自分を情けなく思った。



「心配してくれてたんですね……」

「……うん」



微笑した趙雲を見ながら、が俯いて伏せ目がちにコクリと頷く。



『っ……!?』



一瞬趙雲は息を飲んだ。

のその表情が、何故か夢の中の少女に重なったから。



『………孟起が似ていると言っていたのも……頷ける……』



趙雲はそう思いながら彼女を悲しげに見つめた。

ふと、何故か涙が込み上げる。

幸い、は俯いていたので、趙雲の変化に気付いてはいなかった。



『まずいな……この季節と言うのもあるだろうが……』



趙雲は、自分が涙を浮かべてしまう理由など分かっていた。

重ねてはいけないと思いつつも重ねてしまう程、彼女のふとした仕草や表情が似ている。



今でも夢に見る。

かつて自分が愛した少女に……。



だがここで思い出に涙を流したら、きっとを傷つけるだろう。

それよりも、『重ねている』という自分に対する罪悪感が増えるだけ。



趙雲が己の心と葛藤していると、声が聞こえなくなった事に疑問を感じたのか、部屋の中から馬超が出て来た。



、何の話をしている?」

「あ、馬ッチ」



馬超に気付いたが、パッと顔を上げる。



「俺に内緒か?」

「違うよ」

「じゃあ何だ?言え」

「だって馬ッチ二日酔いでしょ?言ったって来れないじゃん……」

「いいから言え」



馬超は趙雲を押し退けて、彼女の前に仁王立ちする。

馬超は沈黙が気になって出て来たのだが、すぐに趙雲が目に涙を浮かべていたのに気付き、彼が心で何を思っているのかを敏感に察知した。

故に、彼を庇う様にしての前に立ったのだった。

趙雲はそんな彼の気遣いが分かったのか「済まない」とだけ言うと、奥へと引っ込んで行った。



「あっ、子龍兄?」

「俺と交代だ」

「意味分かんないんだけど?」



趙雲が部屋に入ってしまった事に疑問を感じたが彼に呼び掛けるが、馬超がそれを阻止する。

彼女はムゥッと頬を膨らませたが、やはり心配の方が勝ったのか、それ以上は何も言わなかった。



「俺じゃ不満か?」

「違うよ…ただ……………」

「ただ?」

「元気…なかったから……」

「………………不安にさせたな」

「ん…………」



心配をし過ぎて感情が高ぶってしまったのか、は涙目になっていた。

馬超は彼女の背に手を添えて、慰める様に優しく撫でてやった。










「行って来い」

「……?」



を慰めてロビーまで送っていった馬超は、部屋に戻って来るなりそう言い放った。

涙も止まったのだろう。

ソファに座り俯いていた趙雲は、目を赤くしながらも彼の言葉に顔を上げる。



「ゲーセンに…と言われたのだろう?」

「聞いていたのか……」

「当たり前だ」



先程の会話を聞かれてしまった油断に対して趙雲が額に手を当て溜め息を吐くと、馬超は「扉を開けっ放しにしておくお前が悪い」と言わんばかりに、腕を組みながらフンッと鼻を鳴らす。



「あいつ……泣いていた」

「っ!?……………そう……か」



ぶっきらぼうに放った馬超の一言に、趙雲の瞳は一瞬動揺の色を見せるが、それを見られまいと顔を逸らした。

そんな彼の動揺を見抜いていたが、馬超は敢えて何も言わずに言葉を続ける。



「可愛い妹分の誘いを、自分の私情で断るのか?」

「何を………」

「お前を心配しての事だろう?」

「…………………分かっている」

「じゃあとっとと行って来い」

「しかし…………」

「俺からはあいつに『子龍が行きたいそうだ』とでもメールで入れておいてやる。有り難く思え」

「…………………済まん」

「いい。とっとと行け」



馬超がうんざりした顔でそう促すと、趙雲にしては珍しく済まなそうな顔をして立ち上がった。