珍・学園無双〜外伝〜

 〜 PU RI KU RA・4 〜






趙雲は馬超の部屋を出ると、そのまま教室へと戻った。

意外な話に聞こえるかもしれないが、この学園は無断欠席・サボリに厳しい。(特に甄姫先生)

そして趙雲は何の断わりもなく一時間目を無断欠席したので、担任に目玉を食らうかと思っていた。



だが幸い、先程寮へと戻って来た際に趙雲の様子に気付いた曹丕が、話を通してくれていたらしい。

彼は放課後の『掃除当番』の刑に処される程度で、話は済んだ。










一人掃除を終えて待ち合わせ場所に指定された校門前に向かうと、既に『ゲーセンチーム』は集まっていた。



「お〜!待ってたぜ子龍〜!」

「遅ぇぞ!」

「あぁ、済まない」



待っていた・遅いと言いながらも、ニコニコと笑っている孫策と典韋。

趙雲もそれに苦笑を交えて謝りながら二人の傍に駆け寄ると、お次は兄・孫策に誘われて駆け付けた孫権が声をかけた。



「趙殿。珍しいな」

「……?何がでしょうか?」



孫権の言った言葉の意味が理解出来ない彼は、思わず首を傾げる。



「何がとは……。今回のゲームセンター行きの企画を発案したのは、趙殿と聞いていたので………」

「え?………………あっ」



おかしいな、と今度は孫権が首を傾げている。

趙雲は、そんな彼の言葉に驚きを隠せなかったが、ふと頭に何かピンと来た。

チラリと後ろを見ると、孫策と典韋がニヤリと笑っている。



「伯符、典………」

「へへ、バレちったな〜典」

「さっすが子龍だな!」

「二人の仕業か………」



額に手を当てながら、趙雲は溜め息をついた。

要はTゲーセン行きを企画したのは趙雲だ″と、この二人が触れ回ったのである。



「典がよ〜。『子龍が考えた企画なら、皆集まると思う』って教えてくれたからよ〜!」

「それ言うなって言っただろうが!」

「……?どういう事だ?」



孫策がバラしている内容がいまいち理解出来ない。



「要するにT子龍自身が、人を何かに誘うのが珍しい″って事だよな〜典?」

「そう言うこった。子龍発案とでも言えば、大抵の奴等は来んだろ?」

「あぁ、そう言うことですか」



顔を見合わせて笑い合った策・典に、やっと意味が分かったと言うように、趙雲は苦笑した。



簡単に言うと………。

T趙雲は『どこかへ行こう』と誘われれば行くが、自分からは人を誘わない″性質の人間だ。

その趙雲が『〜へ行こう』と集合をかける事自体が珍しいので、大抵の人間が集まる。



今日は平日、しかも授業が6時間目まであったので、孫策や典韋の誘いなら誰もが『疲れたから』『面倒臭い』と断わられる所を、趙雲主催ならば『あの男が?』『珍しいな』『行ってみようか』となる。



「ふふ、中々やりますね。しかし……本当に二人が考えた事ですか?」

「そ、そうだぜ〜!なぁ?」

「あ…当ったりめぇよ!」



趙雲は二人の微妙な返事で誰が主犯者か分かってしまったが、「そうですか」とだけ言う。

ふと視線を感じてそちらに目を向けると、少し離れた所からが俯き気味に彼を見つめていた。
目が合うと、趙雲は彼女においでと手招きをする。



「子龍兄……」

、皆集まった様です。行きましょうか」

「うん……」



優しく微笑んだ趙雲に心無しか安堵したのか、駆け寄って来たは顔を上げる。

そんな心配そうにするの頭を撫でて、趙雲は「行きましょうか」と優しく声をかけた。



「よっしゃ〜遊ぶぜ〜!!」

「おうよ!」

「ゲームセンター。始めて行くので緊張しております!」

「伯約殿もですか?実は私もなんです!」

「お姉ちゃん、楽しみだね!」

「うふふ、小喬ったら」

「かなりの数だな」

「…………そうですね」



上から孫策・典韋・姜維・陸遜、そして大喬・小喬・孫権、はてやそのお付きの周泰までもが揃った。

趙雲は「意外でしたが感謝しますよ。孟起………」とクスリと笑う。

そしてその様子を何事か、と首を傾げているに再度笑いかけて、目的の場所へと出発した。










趙雲の予想通り、意外な事にその策を考えついたのは、馬超。

は趙雲に元気がないと心配して、先程自分の部屋に訪問して来たが、変な形で教室に戻すハメになってしまった。

その後趙雲に早く行け…と促して、彼が二学年の教室に戻って行くのを窓の外から眺めながら、に『子龍も行くそうだ』とメールを打った。



趙雲に覇気がない事は先程の彼の話ととのやり取りで分かっていたし、彼があまり今は外に出たくないのも承知していた。

だが、の涙目を見せられては、さすがに馬超もどうにかしてやりたかったらしい。

それに今の趙雲は、一人で居させる事よりもと一緒の方が、気持ち的には安心するはず。



だが、二人きり……というのは面白くない。

ならば先程のゲーセンの話を利用すれば良い。



馬超の心理としては『親友が苦しんでいる。だが同時にそれに対しても辛い思いをしている。

ならば先程言っていたゲーセンの話を利用して、二人きりではなく大勢で遊ばせて、少しでも気持ちを軽くしてやりたい』と考えたのだ。

そう考えて、すぐに孫策・典韋にT発案者は子龍だと言え″とメールを出し、この作戦が始まった。



補足すると。



『敢えて二人きりにしない』という馬超の作戦は、趙雲がを心配させ泣かせた事に対する、言わば可愛い復讐心。

それに馬超自身はとっくに二日酔いの地獄から抜けていたが、自分が行ってしまったら多分、面白くなくて邪魔をしてしまいそうなのだった。

それならば、他の面子に手を回して任せようと思ったのである。



大事なのは二人きりにする事ではなくて、少しでも趙雲の心に今の時を楽しませる事。










「当事者では………何もしてやれないな…………」



自部屋の窓を開け、縁に頬杖を付いて空を眺めているのは馬超。

ふと階下を見遣ると、そこにはこの季節を象徴するたくさんの花。



「お前はどう思う?…………」



意味深に呟いた馬超の言葉は、誰に聞かれる事もなく傾き掛けた茜色の夕陽へと消えていった。