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珍・学園無双外伝

〜二泊三日 湯煙の旅・16〜






凌統に誘われテラスへ出ると、夜の海が見えた。

周りは微かに明かりに彩られていたが余り気になるほどでもなく、はそこでうぅーんと伸びをしながら、凌統に促された席についた。



「さーて、じゃあ何を話そうか?」

「そうだねぇ…何がいっかな?」

ちゃん、何か俺に質問とかってある?」

「んー、いきなり何と聞かれても浮かばないかも…」

「じゃあさ、俺が質問してもいい?」

「うん、いいよ」

「それじゃあ…」



テンポの良い、話の流れ。

凌統と話していると、瞬く間に色々な話題が沸き、そして過ぎていく。

ここまでツーカーになれる友達もできるものかとは前から思っていたが、それは凌統も同じだったらしい。

ふと思い立ったように、彼は言った。



ちゃんってさ、なんか俺とテンポ合う気がするなー」

「あ、公績君もそう思った?実はあたしもなんだよね〜」

「喋っててもつまらなくないし、グダグダになっててもテンポが一緒だと、なんか気にならないんだよねー」

「うんうん、分かる分かる!」

「とりとめのない話なんだけど、なーんか楽しいし」

「そうそう、ずーっと喋ってられるよね!」



緩やかな潮風に吹かれながら、ほんとうにどうでもいい話ばかりしていた。

しかし意外にも、この2人の息が合う事に驚いたのは、当人達だけではない。

兄貴ーズもそうだが、その周りにいる者達も驚いていたようだった。



家庭に事情がありかなり擦れていた凌統と、まったく何事もなく平凡に生きてきた

凌統は2学年の転入生だったが、とある事をきっかけにになつき(は分かってない)、それ以降なにかとちょっかいを出しに1学年の教室にやってくる。(もちろん馬趙コンビはいい顔をしない)

育ってきた環境やら性格やらが180度違う2人でも、こうまで仲良くなれるのだ。



若干天然成分がうっすらと混じる(覇王とか覇王とか)に、時に絶妙なツッコミをする(以外には辛口)凌統。

2人が会話していると、あまりの展開の飛び具合や戻り具合に、話に入ってこれる者がいない。

これがいわゆる、凌統タイム(無意識バリアー)である。



「あ、そうそう。こないだ公績君が行こうって言ってたライブなんだけど」

「ああアレね、どう?日程空きそう?」

「うんうん、全然オッケな感じ!」

「じゃあさ、俺チケット取っとくから悠々とふんぞり返ってていいよ」

「なんでやねん!あ、お金は現物を見せてもらった時に…」

ちゃん、どっかのマフィアとの取引じゃないんだからさ…。
 あ、そういやこの間、ちゃんが美味しいって言ってたケーキなんだけど…」



今もこんな調子で会話をしていると、ふとテラスのドアを開ける音。

反応の良い2人がこれに気づかぬはずもなく、見てみるとそこには…。



「凌統…俺になんの許可もなくと2人っきりとは、良ーい度胸してんじゃねぇか」

「あぁあんたか。なーんでいつも、こう楽しい時に湧いて出てくんのかねぇ…」



犬猿の仲(主に凌統側)である甘寧がやってきた。

彼もそこそこに飲んでいるのか、ほんのり顔が赤らんでいる。



「あれー興覇じゃん!どう?飲んでるー?」

「おう!俺はいつだって、おっとこ前に飲んでるぜ!!」

「あんたのどこらへんが男前なんだっつの…」



よっ!と敬礼のポーズを取りながら挨拶するに、酒の力もあってかご機嫌に返事をする甘寧。

凌統からすれば、折角楽しく飲んでいたのにいらぬ邪魔が入った事にウザったさを感じたのか、わざと聞こえるように呟いた。

それを逃さず眉をピクリと上げ答えるのも、やはり甘寧。



「なーんか聞こえたぞ凌統!」

「えー空耳じゃないの?あんた、頭だけじゃなく耳も悪いんじゃない?」

「んだとぉ!?」

「はいはい一々吠えなさんなって。ちゃんに嫌われちゃうよ」

「うるせぇ!!は俺にラブラブなんだから、んな事あるか!」



「…………………」



また始まった、とは思った。

この2人の喧嘩が始まると、暫く収拾がつかない。

しかもこの2人、喧嘩で周りが全く見えなくなる。

は、自分は蚊帳の外になってしまうのが分かっていたので、ふぅと息をはくと、一つあくびをしながら店の中へ戻って行った。

もちろん、2人が気づくはずもない…。










店の中へ戻り不意に感じたのは、孤独感。

皆楽しげに笑っているはずなのに、流れる曲調も明るいはずなのに、騒がしいぐらい賑わいは絶えないのに…。

なんだか、この場所から1人だけ離れているような、そんな気がした。



「………部屋戻って、寝ようっと」



近くにいた劉備先生に「疲れたからそろそろ先に上がります」と言うと、彼は酒でいつも以上に緩んでいた顔をふと真顔にして「何かあったのか?」と聞いてきたが、は「いえそろそろ眠いんで」と笑い、クラブ美麗を後にした。










部屋に戻りドアを閉めると、はまずゆっくりと息を吸い、内側にある何かを吐き出すように息を吐いた。

そして次に、備え付けの時計を見てみる。

カチカチと動く針を見つめながら、高校生ならもうとっくに消灯時間は過ぎてるんだろうな、と思った。



何気なく思い立って冷蔵庫の中を見てみると、360・サイズの日本酒が2本置いてあった。

何気なく『1人で飲むのも良いかもしれない』と思い、それを手に窓際の縁に腰掛け、キャップを空けた。

何気なくそれを一口含むと、なんでか無性に泣きたくなってきた。



寂しくはない、哀しくもない、辛いわけでもない。

だが、どうしようもない、何とも説明できない感情が込み上げてくる。

いったいこれはどんな言葉に当てはまるだろうと思いながらも、急激に膨らんだ感情は唐突に大きな音を立てて弾けた。



酒が入っているからかもしれない。

旅行と相まって、気分が高揚しているからかもしれない。

窓から見える夜の海が静かで、いつもの喧噪から離れたせいだからかもしれない。



ポツ、と目から零れ、来ていた浴衣に落ちたそれを見て、更にポロポロと零れる。

なんだか今日はやけにセンチメンタルだなぁ自分、と口元が笑みを作った。

同時に、何もなくても泣きたくなる事が女の子にはある、なんて誰かから聞いた言葉を思い出した。



と、突然、ぶっきらぼうなノックの音。



「…?はい?」

「……俺だ」

「…馬ッチ?いいよ入って」



返答しながら急いで涙をふき、いつものように笑顔を。

だが入ってきた彼は、を見るとすぐに眉を寄せて言った。