珍・学園無双〜外伝〜

〜二泊三日 湯煙の旅・4〜






* * * 回 想 8 * * *



そんなーでこんなーな、バス内における悲劇は、目的地に着くまで続きに続いた。



ノッてしまったのか、爽やかな笑顔をまき散らし、怪電波を旋律し続ける陸遜。

今日ここで、彼の新たな裏の名前が決まったのは、言うまでもない。

それは『炎の精霊』や『魔界からの使者』という名に加え、『黄泉への導き手』や『音痴シズム』というものであるが、彼の表っ面を立てるため、伏せておく。



も変わらず覇王バリアーでそれを凌ぎ、楽しそう。

星彩は聞いているのかいないのか、隣に座って気絶している曹仁に「もらっても良い」と、何故かお菓子を強請り、返事がないものだから「そう、じゃあ頂きます」と、勝手に袋を漁っている。

黄忠は年の所為もあるのか、聞こえが悪いなんたらと言いつつ、耳掃除を始める。



張角は半分気絶しながら「コーキンコーキン」と念仏のように唱え。

関羽は髭がシオシオに萎えて、張遼も昇天している癖に、夢の中で転職する壮大なストーリーを見る。

袁紹は白目にヨダレを垂らしながら、「メーゾクメーゾク」と呟き続けていた。



だが、そんな皆の願いも虚しく。

時間が経つにつれ、それは更なる悲劇を生んだ。



なんと、張飛が「俺も歌うぞ!!」とマイクを握りしめたのだ。

陸遜はそれに笑顔で「ではどうぞ、私と共に歌いましょう!」とのたまい、事態は深刻を通り越し、幽体離脱している者は涙を飲んで諦める結果になった。



あぁ・・・。

二学年のバスに乗りたかった・・・。

留年していれば、こんな事にはならなかったのに・・・。



そんな祈りも虚しく、新規結成・陸&張の歌い手コンビ(斬玉装備)リサイタルは、現地に着くまで延々と続けられるハメになったのだ。



* * * 回 想 終 了 * * *










そうして、話は冒頭(1話目序盤)に戻る。










* * * そして 現在 * * *



「到着しました」との運転手さんの言葉により、ハッといち早く世に舞い戻って来た馬超は、・陸遜と共にバスを降りた。



二学年のバスを見ると、ゾロゾロと生徒達が降りて来ている。

しかし、三学年バスに起こった悲劇を思い返せば、まだ誰も目覚めていないのが頷ける。

自分が叩き起こして歩いても良かったが、一々面倒なので、やめた。



見ると、は早速荷物を取り出そうとしていて、それを調度、二学年バスから降りて来ていた姜維が「あ、私が持ちます!」と『出来る男』をアピッている。

それに「でも重いよ?」と心配そうにするに笑いかけ、彼は「私も一応男ですし、そこそこは鍛えてますから」と、せこせこ三人分の荷物を持っていた。



それを世間では『パシリ君』と言う。

だが、折角が嬉しそうにしているので、馬超はあえて口には出さず、見て見ぬフリをした。



「孟起」

「ん?子龍か」



声の先には、自分で荷物を取ったのか、趙雲。

もちろん、彼の持つドラムバッグには、お菓子入りのコンビニ袋が、ぶら下がっている。

それに目を細めながら、馬超は視界に入った海を見た。



「海なんて、久しぶりだな」

「………あぁ」

「それと、に確認は取ったのか?」

「……………」



なんの?などと聞かなくとも、馬超はそれが何を示すのか、分かっていた。

それは・・・。



「孟起、まさか聞かなかったのか?」

「…………すまん」

「何故っ!?」



『水着を持って来たのか聞かなかったんだ!?』と、急に辺りを気にしつつ、そうヒソヒソ言う趙雲。

それに、馬超は「かくかくしかじか」と、三学年バスで起こった悲劇を説明し、任務遂行出来なかったと詫びる。

その説明で納得したのか、趙雲は「そうか」と言った。



「だが、孟起。私達の指命を忘れるなよ?」

「あぁ」

が水着を持っている、と言ったら、即没収だ」

「あ、あぁ……」

「なんだその気の抜けた返事は!?お前は事の重代さに気付いていない!!
 の魅力を持ってすれば、男達のイヤらしい視線が飛び交うのは必須!!!
 何としても、彼女の肌は、私達が守らねばならんだろう!!!!!!!」

「お前……………本当変わったな」



力説するの義兄に、馬超は内心ドン引きながらも、そう返すしかなかった。









バス内の悲劇を知らされたのか、二学年と同乗していた祝融先生の熱い拳により、三学年と一部一年生は、何とか現世に戻って来る事が出来たらしい。

それを知らされたのは、全学年が入り座る事の出来るロビーに通されてからだった。



「ねぇ子龍兄、ロビー超広くない?」

「そうだな。聞く所によると、食事も相当良いらしいぞ?」

「うっは〜それ超楽しみなんだけど!」

「ふふ……それでこそだ」



もう勝手にやっててくれ。



和気藹々と続く、義兄妹の会話に、馬超は心底疲れ果てた。

いつもはその会話にゴリ押しで入るが、先の趙雲との『水着トーク』で、一気に体力を奪われてしまった。

カミングアウトが当たり前になってしまったのか、趙雲はの肩に手を回しながら(も嬉しそうにしている)、ここは何が特産で〜と話している。



「おい、貴様」

「?」



ぐったりした姿が目に入ったのか、そんな彼に声がかかる。

目をやると、もの凄く不機嫌そうな顔で突っ立っている、司馬懿。



彼も、祝融先生に起こされた内の一人なのか、右頬にはくっきりとした拳の跡。

うわー痛そう、思わせる逸品を目にしたが、馬超はそ知らぬ顔で「なんだ?」と問うた。

司馬懿はそれに鼻を鳴らしつつ、隣に座る。



「珍しいな」

「………何がだ?」

「貴様、あの女の保護者ではなかったか?」

「……………」



何が珍しいって、お前が俺に声をかけて来る事がだ。

そう言いたい馬超の視線を無視して、司馬懿は言ってのけた。

それに、小さく反応を出してしまったが、馬超は『気にも止めない』という姿勢を貫く。



「保護者は保護者なりに………相応に、あの女の世話をしろ」

「…………何が言いたい?」

「ふん。凡愚では、私が言動の意を理解する事は、不可能か……」

「……………」



司馬懿の言いたい事は、分かっていた。

要するに、を放したくないのなら、それ相応に頭を使えと言っているのだ。



そんな事、馬超には分かっていた。

そして、司馬懿としても、彼はそれぐらいの事を理解しているのだろう、とも。



が離れただけで、拗ねた表情を全面に出すし、が他の誰かと話しているだけで、すかさず割って入ろうとする。

周りからすれば『変わった』と言われる所だし、良い傾向でもあるのだが、如何せんやり方が子供染みている。



司馬懿がそんな事を言う必要もないのだが、実際、彼としてみても『』という女は、口には出さないが面白い存在であるのだろう。

それが分かった馬超は、一言「お前には関係ない事だ」と言うと、ソファから立ち上がり、義兄妹の中に割って入って行った。



「ふん…………馬鹿目が」



司馬懿は、黒羽扇を口元に当て、目を細めて呟いた。










趙雲が左隣に、そして馬超が右隣に立っている間で、はふとある事に気が付いた。

素直にそれを口に出してみる。



「ねぇ、部屋割りってどうなんの?」

「あっ………」

「……………言われてみれば」



更に予測不可能な事態が起きた、と言わんばかりに、趙雲と馬超は目配せし合った。

何?と怪訝な顔を気にするをよそに、アイコンタクトで話し合う。



『おい子龍、どうする?』

『どうする、とは?』

『部屋割り、決まってなかったろう?』

『そうだな………プリントにも、部屋割り書いてなかったな』



は、誰と一緒か分かるか?』

『今しがた、プリントにも書いてないって言っただろう?私が知るはずがない』

『くっ…………使えん奴め!』

『そういう孟起こそ、知らないだろう?』



「ちょっと、何見つめ合ってんの?」

「はっ!」

「っ!」



黙り込みジッと見つめ合う男二人に、は無気味そうに声をかける。

それでアイワールドから抜け出たのか、馬超も趙雲も我に帰った。

と、その時、二人のアイコンを聞いていたのかと思うほど、ナイスタイミングで甄姫先生が「部屋割りを発表しますわ」と言った。