珍・学園無双〜外伝〜
〜二泊三日 湯煙の旅・5〜
全員がロビーへ集合し、告げられた部屋割りは『まぁ妥当だな』と思うものだった。
女性は女性同士、男性は男性同士という、二人一組で部屋を使う。
そこには先生方の配慮もあるのか、学年を気にしない『こいつとこいつは仲良かったよな、確か』という割り振り。
例を上げれば馬超と趙雲、陸遜と姜維、孫権と周泰、といったもの。
無論、それは女性陣にも適用され、小喬と孫尚香、大喬と貂蝉、月英と星彩という組み合わせになった。
しかしここで、待ったをかけた人物がいた。
言わずもがな、兄貴ーズである。
無双学園は女性が少ない。
残ったのは、祝融先生と甄姫先生であるが、なんと教員は教員同士で部屋を割り当てた、というのだ。
故に、は一人になってしまう。
「あら、別に宜しいのではなくて?」
「そうさね、子供じゃないんだから、一人でも大丈夫だろ?」
兄貴コンビが意義を唱えるも、教員二名は目を瞬かせ、次に笑ってそう言った。
自身も「え、別に一人でも全然平気だけど?」とキョトンとして言っているが、問題はそこではない。
「馬鹿かお前は!」
「そうだぞ。一人で寝る事になるし、それに………」
「?」
一人で寝る事の何が悪いのか?と視線で問う。
しかし、彼等はそれに『何故言いたい事を分かってくれない!?』と言わんばかりに、プルプル肩を震わせていた。
一般的には、あの言葉だけで何が言いたいかなど、分かりはしない。
よって、が理解出来なくて当然なのだ。
しかし、兄貴コンビは『分かって当然だ!』とでも思っているのか、胸を張っている。
要するに。
二人からすれば、『女一人で泊まらせて、とんでもない輩が夜這いにでも来たらどうする!!』という事を言っているのだ。
だが、そんな事を言っていても、女性は計算上一人余る。
かといって、どこか別の女性陣の部屋に割り込むとなると、布団が足らない。
というか、確実に一部屋が狭くなる。
しかし、その理屈は彼等には通用しなかった。
何故なら、『大事な嫁入り前の妹分に、何かあったら困る』から。
別段お前等のモンじゃねぇだろ、と言ってやる事はいくらでも出来るが、それを言ったが最後、彼女の『義兄』に返り打ちに合い、二度と日の出を拝めなくなるだろう。
それが分かっていたからこそ、孫権も甘寧も姜維も(趙雲のカミングアウトを目の当たりにして来た者達)誰も彼もが、その一言は述べなかったのである。
だが、馬趙コンビは臍を噛む結果に終わる。
先生方にも相手にされず、更にはに「子供じゃないし、戸締まりはキチンとするから」と笑って諭されたのである。
そこまで言うなら仕方ない・・・・とは、そうは問屋が降ろさないのである。
「、お前はまだ子供だ」
「何言ってんの………あたしと馬ッチ、同い年じゃん?」
「精神面の問題だ」
「あたしのが大人じゃん」
「おい、子龍!何とか言ってやれ!!」
全く取り合わないに、馬超はとうとう最終兵器子龍を使った。
しかし、彼は何故か顔を俯かせ、思案している。
「おい、子龍?」
「ん?あぁ、なんだ?」
「聞いてなかったのか……」
「そうだな、では私がと共に………」
「ふざけろ!!!」
ゴッ!!
どこか目がイッてしまっている相棒をド突きながらも、馬超は諦めざるを得なくなった。
とにかく目の前の『自称兄』の暴走を、止めなくてはならなかったから。
口元を無気味に歪め、クククと笑う男は、変人以外の何者でもない。
何とか殴り続けて目を覚まさせようとするも、趙雲の思考はイキッぱなしである。
だが、それもの一言により、直に『爽やか子龍』に戻った。
「ねぇ子龍兄、荷物置いて自由時間になったら、一緒に海行こうよ」
「あぁ!そうだな、それが良い!!流石は私の義妹だ!!!」
「……………」
途端、表情を変える相方を目の当たりにし、馬超には更なる疲労が襲いかかった。
と共に旅行、というので、テンションが上がっているのだろう。
到着して間もないのに、馬超の体力ゲージは一気に減った。
馬超達と別れ、女官さんに部屋へ案内された部屋に、荷物を降ろす。
何となく窓から外が見たくて、は伸びをしながら窓辺に寄った。
「うわ〜綺麗………」
見晴しが良い位置ですわ、と甄姫先生が言っていた通り、窓から見える景色は海・海・道路・海だった。
それにほぉっと感慨の溜息を漏らし、窓を開ければ心地よい波音がするであろう海を、じっと見つめる。
カラカラと窓を開けてみれば、そこから入るのは潮の匂い。
「あ〜海って感じだな〜」
「海ですからねぇ……」
「っ!!?」
うっとりと、一人で自然を感じていたはずなのに、返答が・・・。
それに目を見開き、入り口の方へ目をやると。
「あれ?諸葛さん?」
「先程はどうも、殿」
「あ、いえいえどうも」
なにが『どうも』なのか分からないが、取り敢えずそう返しておく。
しかし、何故いきなり現れたのか理解出来ず、は苦笑いを隠せない。
暫しの沈黙。
諸葛亮は、白羽扇で口元を隠している為に表情は伺えないが、薄く笑んでいるのが分かった。
だが、向かい合いただ見つめ合う事に困り果てたのか、が口を開く。
「あの………」
「あぁ、失礼。どうかお気になさらず。貴女にお渡ししたい物がありましたので……」
「あたしに?」
「えぇ…………どうぞ、受け取って下さい」
「は、はぁ…」
ゴソと渡された物は、とても可愛らしい包装紙で包まれている、何か。
「………………」
「開けてみて下さい」
「あ、はい……」
こんな時に、何故にプレゼント?と思ったが、いつか馬超が「諸葛殿は変わっているぞ」と言っていた為、気にしないでおく。
見えない空気に押され、は思いきって包みを開けてみた。
すると。
「コレ…………なんですか?」
開けてみるも、そこには『プレゼント』とは言い難い、プチゴッツイ箱。
なんだこれは?と第一印象で思ったが、よくよく見ると、前面には虎の顔が付いている。
諸葛亮は待ってましたとばかりに、簡潔に説明をしてくれた。
「それはプチ虎戦車という物です」
「いや………そうじゃなくて」
名称なんてどうでも良い。
そんな気持ちを出さぬよう、贈り物と渡されたそれを凝視する。
「月英から殿へ、と……」
「え、月英さんから?」
「えぇ、それは彼女の発明品なのですが、『さん一人では危ないので、これを贈ります』だそうです」
「そ、それはそれは………」
ぶっちゃけ、こんなん贈られても困る。
切々と視線で訴えてみるものの、諸葛亮は気付かない、というか気付くつもりもない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
『取扱い説明書』と書かれたものに目が行くが、何となく読む気がしない。
それよりも、虎の口内からは、チャッカマンが飛び出ている。
以前、姜維から「月英さんから、色々な兵器の資料を貸して頂いたんです!」と聞かされた事があった。
その時は「そーなんだ」と有耶無耶になっていたが、もしかするとこれは・・・。
が悩みに悩んでいると、諸葛亮が追い討ちをかけるよう、口を開いた。
「女性の独り寝は危険ですからね。殿に何かあっては一大事、と思い、作ったのでしょう。
無理を言うようですが、是非とも貰ってやって下さい」
「えっと……」
「妖しい輩が侵入して来たら、その頭にあるスイッチを押して頂くだけで、撃退出来ますので」
「……………」
ようは、対侵入者用の兵器なのだろう。
言いたい事はそれだけか?
そう思いつつも、覇王化していないは、何故かこの男には逆らえない。
下手に逆らったりしたら、恨まれそうで怖いからだ。
なので、は『使わないようにすれば問題ないか』と思いつつ、「ありがとうございます、月英さんにもそう伝えて下さい……」と、若さを一気に吸い取られたような脱力感に苛まれつつ、一つお辞儀をした。
諸葛亮もそれに満足したのか、フフフと一つ笑うと、今来た道を戻って行った。
「……………………どうすんのよ、コレ」
ポツリ、と部屋に残されたは呟いてみたが、すぐに『子龍兄達と海行くんだった!』と思い返し、プチ虎戦車を机の上にコトリと置いて、急いで準備をし出した。



