珍・学園無双〜外伝〜

〜二泊三日 湯煙の旅・6〜






は、取り敢えず制服を脱ぎ、着替え始める。

浮輪を忘れてしまい、そんな自分にショックを受けたが、取り敢えず中に水着を着た。

海へ出る準備を終えたと同時に、コンコンとドアがノックされる。



「はい〜どちらさん?」

「俺だ」



あぁ馬ッチか、と呟きながら「どうぞ〜」と返答すると、待ってましたとばかりにドアがドバッ!!と開いた。

そんな乱暴に開けなくても・・・と思うも、どうやら盛大に入室をかましてくれたのは、義兄だったらしい。

と、不審人物が居ないかチェックし始めたが、何をそんなに不審がっているのか、にはまったく分からなかった。



「ねぇ、子龍兄………何やってんの?」

「むっ?、部屋に入ってから、誰か来たか?」

「ううん…………あっ、諸葛さんが来ただけだけど……」

「諸葛殿が………?」



何故彼が・・?と訝しげに眉を寄せる義兄に、は取り敢えず『誤解を生まない為に』と、プチ虎戦車を指差して先程の説明をした。

馬超はふんふんと聞いていたが、趙雲は『月英が作り、諸葛亮が置いていった』物体を見つめると、肩をプルプルと震わせている。



え、もしかしてやっぱ誤解されたの?

そんな思いが胸中でエンドレスに回り、は些か冷や汗をかいたが、どうやらそうではないらしい。

趙雲はバッと顔を上げると、いつも以上に爽やかな笑みを見せて、言った。



「流石は月英殿!私達の気持ちを、よく御理解して下さっている」

「お、おい子龍……?」

……絶対にその、プチ虎戦車とやらは、部屋に置いておくように」

「……………」



もうどうにでもなれ。

馬超は、相方の笑顔に『あぁ、またこいつが壊れて行く…』と疲労感を覚えたが、こればかりは殴ろうが蹴ろうが、どうしようもない。

症候群とでも言うべきか。



そしてまた、も義兄の笑みに当てられて(色んな意味で)、目を泳がせつつも承諾した。

彼女がそうした事により、プチ虎戦車は『趙雲公認・対を狙う暴徒用』として認定された。

数分後、どこかげっそりと病んだ空気のと馬超が、笑みをまき散らす趙雲に連れられて、部屋を出て来た。



その光景をたまたま見かけていた、の隣部屋の孫権・周泰コンビは『何だ?』と首を傾げたが、周泰の「ふっ……」という意味深な笑みと共に、謎が解ける事はなかった。










旅館のすぐ目の前が海、という事で、達よりも早く着替えて外へ出た者達は、早速水着姿でビーチバレーや海水浴、そして誰が持って来たのかさえ分からないバーベキューセットを準備していた。

それを見たが、歓喜の声を上げる。



「うっわ〜〜!あたしもバーベキューやりたい!!」

「まだ準備中だろ」

「だって、『海と言えば?』ランキングのベスト5に入ってんでしょ、バーベキューって!」

「お前………」



趙雲同様、のテンションも、海を見た瞬間にグン!と上がってしまったらしい。

キャーーー!と小喬のような奇声を発すると、一目散に海へと駆け出して行った。

それを見て、続けとばかりに趙雲も駆け出す。



「…………………子龍、お前も随分変わったぞ」



いや、変わり過ぎだ、と付け足しながらも、馬超もゆったりとした足取りで、歩き出す。

しかし、ここで待ったをかける人物がいた。



「馬殿!バーベキューの支度を、手伝って下さいませんか?」

「?………………………あぁ、お前等か」



声の主である陸遜は、彼の返答に、にこやかな笑みを見せる。

馬超は面倒臭いと断わろうと思ったが、生憎趙雲やのようにテンションが上がっているわけではなく、付いて行ったとしても浮いてしまうだろう。

そう思ったので、取り敢えずは陸遜達の手伝いをして時間を潰そう、と考えた。










「ヒャッハーーーー!!!!」



ザバザバと音を上げながら、が海沿いを駆け回る。

水着は着ていたが、恥ずかしさがあったのか、服を脱ごうとはしない。

それに対して、趙雲は不思議と突っ込みをかましていた。



、どうして水着にならないんだ?」

「えっと………まぁ、あたしも恥ずかしがり屋なオンナノコって事で……」

「……?」

「水着は着てるけど、恥ずかしいって事!」

「あぁ」



少し頬を赤くしながら、誤魔化すように言ったに、趙雲は苦笑した。

だが、彼としては『水着披露』は大勢の前では控えてもらいたかった為、笑顔を見せる。

近付き頭を撫でてやると、彼女は照れくさそうに笑った。



しかし、そんな二人の微笑ましい雰囲気をブッ壊す事が、目の前で起こる。



「何をする!!!この馬鹿目が!!!!!」

「何をと仰いましても………」



お決まりの台詞で誰かを罵っているのは、司馬懿。

そして、罵られても冷静に対処しているのは、なんと諸葛亮。

ある種王道であるが、組み合わせとしては、非情に珍しい。



そんな事を思いながら、と趙雲は彼等を見つめた。

どうやら、何故か後を諸葛亮がくっついて歩く為、司馬懿がキレているらしい。



「付いて来るなと言っておろうが!!!!!!」

「ふふふ…………たまたまですよ、たまたま」

「何がたまたまだ!!!良いか?貴様、今から私の後を追うような事があれば……」

「ほう?一体どうすると言うのですか?まさか、私を海に沈めるとでも……?」

「ぐっ………!」



別段、海に沈めてやっても良いのかもしれないが、諸葛亮の言葉で、司馬懿が悔しげに歯噛みする。

それが何故なのかは分からなかったが、もう少し様子を見ていよう、とアイコンタクトを交わしつつ、も趙雲も傍観者に徹した。



「司馬殿………よもや私が、貴方に関しての情報を、何も知らないとでもお思いですか?」

「くっ………な、何がだ馬鹿目が!!!」

「ふふ、知っているのですよ…………貴方がおよ………」

「や、止めんか!!!!!」



白い海パン姿(トランクス風味)に、これまたお馴染みの白羽扇を口元に当てて、諸葛亮はニヤリほくそ笑む。

それに対し、黒い海パン姿(同じくトランクス略)の司馬懿は、顔を真っ赤にして言葉を止めようとしていた。



何が何だか理解不能だが、どうやら司馬懿は必死らしい。

あわあわと諸葛亮の背後に回り込み、彼を黙らせるべく、白羽扇越しに掌で彼の口を覆った。



「なんだろね?」

「さぁ………?」



傍観に徹していたも趙雲も、互いに首を傾げる。

慌てる司馬懿に対し、諸葛亮は口を閉じられているも「もふふ……」と笑い、その拘束からするりと抜け出した。

そして、と趙雲が傍観している事が分かっていたのか、二人に聞こえる声で、言った。



「ふふふ………司馬殿。
 T泳げない″からと言って、海にはやはり海パンですか……。
 ですが、格好から入る貴方は、実に滑稽ですと申し上げたかったのですよ」

「なっ!!?!?」



「……………あぁ」

「成る程、そういう事か……」



どうやら、司馬懿はカナヅチらしい。

会話だけでそれが分かったものの、も趙雲も、何故司馬懿がそこまで隠したがるのか、理解出来なかった。

だが、大事な大事な『秘密』を暴露された司馬懿本人は、顔を真っ赤にさせて激怒した。



「諸葛亮………………貴様ぁ!!!!!!!!!!!」

「ふふふ………恥ずかしい方ですね、司・馬・殿」

「ぬああぁっぁああああ〜〜〜〜〜、そこになおれ!!!
 今日という今日は、この私が直々に成敗してくれる!!!!!!!!」

「ふ・ふ・ふ…………」



方や激怒で紫色のビームを発し、方や宙に浮きながらそれを避ける。

黒vs白のハタ迷惑なファイトには、流石『覇王&ダークサイド』も、疲労を隠せなかった。



バーベキューの支度を手伝っている最中、運悪く司馬懿ビームを食らってしまったと思われた典韋は、スキンヘッドだった為か、それを上手く反射する。

そしてそれは、ちょうどビーチバレーでアタックを打とうとしていた曹操に、クリティカルを出した。

怪我人として処置されるはずの曹操は、どうしてか『不慮の怪我』とされ、コートから出されたは良いものの、誰も介護してくれそうもなく。



それを目にした夏侯惇は、「因果応報というやつか…」と呟くと、ドリンクを買いに許チョと張遼を連れてコンビニへ歩き出した。



一連の出来事を見ていた、と趙雲。

二人は顔を見合わせると、各々纏う『覇王』『暗黒』オーラをふしゅると抜き、げっそりとした表情で、馬超の元へ戻った。



馬超にとっては、結果オーライなのかも・・・・・しれない。