「そろそろ戻りましょうか」

「そうですね、温泉にも入りたいですし」



誰かがそう言ったのが、きっかけだった。






珍・学園無双〜外伝〜

〜二泊三日 湯煙の旅・8〜







誰かが宿に戻りはじめると、皆、続くように戻り支度を始めた。

バーベキューで肉の取り合いをしていた者(余談だが、達が食っていたのは松坂牛などではなく、『予算削減!』という甄姫先生の意で購入された100g78円のブツ)や、死闘たるビーチバレーで死屍累々の者。

ふんどし姿で泳ぐ者や、『風流』と書かれた扇子を片手に「馬鹿目が!」と叫ぶ者、その後ろを付け回して「ふふふ」と笑う者まで、一斉に宿に帰り始めた。



だが、ここで先生方が集まっていたかと思うと、何やらコショコショと話をしている。

は馬趙コンビと共に戻ろうとしたが、ふとその様子が気になり、見つめていた。



甄姫先生と周瑜先生は、少し青ざめ。

張コウ先生と、保健医馬岱先生、そして甄姫先生亭主である曹丕(現在表ver)は、微笑み。

魏延先生は何を考えているか知る由もないが、劉備先生はニコニコと只笑っていた。



張コウ先生と曹丕が、見合って小さく笑い合う。

そんな二人に、甄姫先生と周瑜先生が顔を青ざめたまま、何事か反論する。

そして両者に対し、劉備先生「まぁまぁ」と言っているのが、ジェスチャーで分かった。



何を話しているんだろう?

そう思ったは、そっと近づき、話を盗み聞いてみた。



以下、先生方の会話。



甄姫「お待ち下さい、私は反対ですわ!」

張コウ「それを私に言われましても、どうする事も出来ないじゃありませんか?」

曹丕「そうだよ、甄。それに滅多にない機会じゃないか」

甄姫「な、何を仰るのです!?貴方まで!!」

周瑜「私も、甄先生の意見に賛成です」

甄姫「そうですわよねぇ、周先生。丕様、大体貴方は……」

馬岱「ですがまぁ………甄先生、周先生。
   生徒達もこういった催しは、中々体験出来ないでしょうから。
   私も張先生と同意見ですが、良い機会だと思いますよ?」

周瑜「いや、しかし………」

甄姫「周先生、ここはバシッと言って下さいませ!」

馬岱「バシッと……かぁ。これは痛そうですね」

張コウ「ふふふ、そうですね。さぁ、周先生。
    他人の奥方の味方、というのが美しくありませんが、華麗に言う事も……」

周瑜「ぐっ…………グハッ!!?」



会話終了。



上記の会話の通り、にも馬趙コンビにも、先生方が何をそんなに言い合うのか、理由が分からなかった。

分かる事といえば、甄姫&周瑜vs張コウ&馬岱という、これまた変わった組み合わせの討論。

一体何を主体に話をしているのか?と、達は顔を見合わせる。



だが、周瑜先生が美麗な吐血を披露したところで、劉備先生が話に入った。



「まぁまぁ、先生方。そんなに躍起にならなくても。周先生、大丈夫ですか?」

「ぐぅ………も、申し訳ない…………」



硬直状態で吐血、そして倒れた周瑜先生に、劉備先生のマイナスイオンハンドが。

周瑜先生はそれに感動したのか、嬉し涙を流して起き上がった。



「私達だけで話をしても、埒があきますまい?
 ならば、生徒達に聞いてみるのも、教育者の勤めではないかな?」

「えぇ………そうですね」

「では、張先生。その華美な俊足で、生徒達にロビーへ集合するよう、伝えて頂けるかな?」

「畏まりました!この私めが、美しく生徒を集めて参りましょう!!」

「うむ」



言うや否や、張コウ先生は華麗に宿へ旅立った。

それを見送りながらも、甄姫先生は曹丕にブツクサ文句を言い、周瑜先生は血を拭う為に水道へ向かった。

その一方、話の主旨も分からず、ただそれらの見届けを完了してしまった達は・・・。



「……………」

「……………」

「……………」



唖然と立ち尽くしていた。

話も分からなかったが、教師陣が分からない。

というか、理解出来ない。



「……………………じゃ、ロビー行こっか」

「……………あぁ」

「……………そうだな」














張コウ先生の華麗なる俊足のおかげか、先頭をきる生徒達が部屋に辿り着く前に、全員ロビーへ召し出された。

劉備先生はそれを称え、張コウ先生は「美しく戻って参りました!」と回転する。



生徒達といえば『何があるんだ?』といった顔をしている者や、『風呂入りたい』という顔をしている者。

聞こえて来るのは「腹が減った」「身体がしょっぱい」「部屋戻ったらスネ毛剃らないと」との会話。

『誰だよスネ毛処理して来なかった奴は』と思い、はその声の主を探そうと見回したが、劉備先生が話を始めるべく咳払いをした為、そちらへ目を向けた。



「あ〜、ここにそなた達を集めたのは、理由がある」



分かってます。

はそう伝えてやりたいんだろうな、と馬趙コンビは秘かに苦笑する。



「まぁ、なんというかな…………。
 今回の旅行を楽しんでくれていれば、私としても企画して良かったと思っている。
 これから温泉につかって、これまでの疲れを取りたいと思っている者も、いるだろう」

「劉先生、話が長いですわ」

「これは失礼した……。
 実は今回のこの旅行で、私達教師陣でも予期せぬ出来事が、起こってしまった」



その言葉に、生徒達がザワッとどよめく。

一体何が!?



もしかして、旅費がない?

え、実は晩飯付いてないプランだった?

それとも・・・・・・スネ毛?



そんな生徒達の思いが交錯する中、劉備先生は実に爽やかに、言った。



「温泉、という事だけで私が確認しなかったのもあるが………。
 ははは、ここはどうやら、混浴しかないらしくてな!」



・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・。



ザワザワ。

ドヨドヨ。

グニョグニョ。



直後、静かなる動揺と歓喜の声が漏れた。

『よっしゃー!』とか『一緒に入れるのか!?』といったものから、『え、マジ?』とか『タオル巻きゃ〜大丈夫だって!』という声まで。

男性陣の殆どが、喜んでいた。



女性陣も同様に、何故か顔をニヤけさせている。

それを見て、逞しい男の身体が見たいのか?と、馬超は直感で感じた。

趙雲も、それに同じらしい。



「……………」

「……………」



二人顔を見合わすと、今度はチラとを見てみた。

歓喜するか、キレるか。

苦い顔をしている所を見ると、後者か・・・。



そんな事を二人で思う。



「やった!男の身体〜!」もしくは「はぁ?何で一緒に入らなきゃいけないワケ?!」。

どちらも彼女らしいといえばらしいが、どちらも微妙といえば微妙な答えだ。

だが、答えは聞いておきたい。



「…………

「ん?」

「混浴らしいが…………どうする?」

「………あ〜………」



は前髪をクシャッと掴み、何か思案しているようだったが、彼等は構わず聞いてみた。

彼女は暫く「う〜ん」「あ〜」と唸っていた。

だが、それを終えふっと息をつくと、言った。



「楽しそうは楽しそうだけど…………ハズいよね」

「!!」

「!?」



変わらず苦笑いするは、首の後ろを掻きながら、そう言っただけだった。

しかし、それがどうしてか、彼等のツボにヒットしたらしい。

「へへっ…」と笑う所が、キたのだろう。



「え、なに?あたし、何か変な事言った………?」

…………お前は……………なんて可愛い奴なんだ!!!!!」

「お、おい子龍………?」



途端ブレイクした長兄を見て、次兄馬超が我に帰る。

最近こんな役回りばかり故か、相方を止めるのが日課になっている気がする。

と言えば、そんな彼に抱きつかれても笑っているだけだし(カミングアウトに慣れたのか)。



誰かこいつを止めてくれ・・・・。

俺だって・・・俺だって・・・・・・。



そんな馬超の想いを知る由なく、生徒達殆どの多数決により、混浴は決まった。



ちなみに混浴が嫌だという方々も、劉備先生の笑顔の『郷に入っては郷に従え』論により、強制的に入らされる結果となる。