珍・学園無双〜外伝〜
〜二泊三日 湯煙の旅・9〜
学生や職員達の半強制的な混浴場集合には、時間がかからなかった。
皆一度部屋へ戻り、浴衣や下着、バスタオルやシャンプー諸々を持参して。
も同じく、あれやこれやと煩い馬趙コンビを無視して荷物を取りに戻った。
支度を手早く済ませると、見計らったようなノックが聞こえる。
それに「誰ー?」と問うと、「小喬だよー!」との返答。
ドアを開けると、いつの時代の人間だ?と思われるような『金魚柄のマイ風呂敷』に荷物を包み、疎開して来ましたと言わんばかりに首に巻き付けた小喬が居た。
「ちゃん、一緒に行こうよー!」
「うん、いいけど………その風呂敷………」
『イケてないよね』と言うのは簡単だった。
風呂敷の包み方など知ったこっちゃないが、明らかに巻き方がおかしい。
だがそれ以上は言ってはいけない、言えば何かが起きる、との中の何かが告げていた。
「準備オッケー?」
「う、うん。あたしは全然大丈夫だけど………」
『なんで風呂敷……』と心の中で呟くのが精一杯だった。
だって突っ込んでも分かってくれなさそうじゃん。
結果的には『金魚柄の小喬専用風呂敷』に特に突っ込む事なく、は歩き出した。
「あぁ良かった………」
「え、何がー?」
どうやら、脱衣所は男女別々らしい。
当たり前だ。
小学生でもあるまいし、体格にもキッチリと区別がつく年齢の者達が同じ場所で着替えるなど、あってはならない。
「混浴って聞いたから、もしかしたら脱衣所も男女共同なのかと……」
「えー!?ちゃんソレありえな〜い!!」
小喬の声はよく通る。
壁を通して男性用の脱衣所まで響き渡らん勢いだ。
「ちょ……小喬ちゃん声おっきいよ!」
「え、嘘ー!!私そんなでもないよ〜」
「クールダウンして、お願いだから!」
皆で温泉という事で、些かテンションが上がり過ぎている。
確かに自分もそうなのだが、学生ノリで少し恥ずかしい。
学生なのだが・・・。
「ほらほら、ちゃん早く脱ぎなよぉ!」
「さ、先に行ってて良いよ」
「えーなんでぇ!?見たいじゃ〜ん!!」
「せ……性別同じなんだから、同じもんしかくっついてないでしょ」
「でも見たいよぉ〜」
片方はテンション故の大声だが、もう片方はその大声を沈めようとしている内に同じぐらいの声量になっている。
だが、は全くそれに気付かない。
「ほ、ほら!先行ってていいから…」
「やだよぉ、一緒に入ろう!!」
「分かった、分かったから腕離して………脱げない」
「テキパキ脱いでねー!」
急かされれば急かされる程、服は上手く脱げない。
そんなに早く入りたいなら、自分を置いてさっさと行っても良いと言ってるのに。
だがしかし。
こんな年齢で言うのもなんだが、恥ずかしい。
なんでかどうしてか、とにかくハズい。
その横で、大喬とキャッキャ言いながらスルスルと脱いで行く尚香を見て、やはり美少女ーズは肝っ玉が違うと思った。
と、裸体にバスタオルを巻いた状態の大喬が「あら?さんも早く行きましょう!」と仰る。
それに続けとばかりに、バスタオルを巻きながら尚香が「戸惑ってるの?手伝おうか?」などと言っていた。
・・・・・・・腹を決めるしかないのだろう。
覇王の道を歩み始めた彼女は、中途半端なトランス状態に入った。
来ているTシャツを豪快に脱ぎ、口を真一文字に結んで下着を脱ぎ捨てる。
その行動や、正に覇業を掴み取るだろう天駆ける竜のごとく。
一体何に感激したのか、尚香は「流石はだわ!!」と握りこぶしを作っていた。
カラカラと薄い扉を開けると、そこは一面曇っていた。
湯気の所為なのだと分かるが、5m先が見えない。
もくもくと発汗を促すようなそれは、入った瞬間に『開け穴!』とばかりに、毛穴を大いに開けてくれた。
「あれー?見えないよぉ!!」
「大丈夫よ小喬。滑らないように歩けば、尻餅をついたりしないから」
「そうよ。この方が面白そうじゃない!」
奥の方からは、ドボーンと飛び込む音の後に、ギャハハと笑い声(多分甘寧)が聞こえた。
メイン会場(湯舟)では、盛大に盛り上がっているようだ。
美少女達は互いに頷くと―――見えないが、三人分の「うんうん」と声が聞こえる―――、湯舟のある方へと歩き出した。
ペタペタペタ。
その速度や音を聞いて、は『全然滑らないように歩いてない』と思った。
三人共、身のこなしが良いのだろう。
全く滑る音が聞こえない。
危なっかしいどころか、むしろ普通に歩いているようだった。
「……………」
先が見えず、輝く温泉までの距離は普通に近い。
だが湯の成分なのか、ヌルッとする床は彼女の歩調を遅くさせる。
というか、歩けない。
「……………………」
取り敢えず、前に進もうと考えた。
・・・・・・・すり足で。
しかし、やはりヌルヌルとする。
こうなりゃ目的地まで四つん這いで行ったる!と意気込みを見せたものの、予測ないのコケる未来の自分を思い、躊躇してしまった。
背後の気配に、彼女は全く気付かない。
「どうしよ………辿り着けない………」
「何を言ってる?」
「うおっ!!?」
馬ッチ様の登場である。
湯煙の中、彼はの背後で仁王立ちしながら腕を組み、彼女の先程から続いていた不可解な行動を全て見ていたのだ。
自分よりちっこい影が突っ立ち、上下したり(すり足)・・・・。
近付きよくよく見れば、。
何をやってるのかと声をかけようとしたものの、無言で何か遂げようとする彼女の背中に意志を折られ、暫く見入っていたのだ。
それからタイミングを測っていたが、ようやくその時を向かえた。
「………ヌルヌルするから、どうやって移動しようかなと」
「アホかお前は。普通に歩いて行けば良い」
「転んだら恐いじゃん……」
「…………ふぅ」
溜息の後にグイと腕を引っ張られる。
無遠慮だったが、痛くはない。
そして『これなら心強い』とが思ったのも束の間、やはりヌメりに足を取られて前のめりに滑った。
「きゃっ!!」
「……っと…………すまん」
「びっくりすんじゃんよー!!!」
自分でも驚く程女らしい声を出してしまった事が、まず第一の後悔だった。
第二の後悔は、少しでもこの男を信用した自分へ。
そして、第三の後悔は・・・・。
「うっわ…………胸板厚っ!!」
「…………そうか?」
「厚いって、やばいって!!」
「…………やばいのか?」
反射的に受け止めてくれたものの、体制的に『ベタな展開』。
ペシャ、と身を縮こめて四つん這いになったを支えるように、馬超がその肩に手をかけたのだ。
やはり恥ずかしい。
よく分からないが、とにかく恥ずかしい。
何故か照れを隠すように捲し立ててしまう。
「、お前…………照れてるのか?」
「っ!!!」
ここで煙りが視界不良を誘っていなければ、の照れ顔が真直ぐに馬超の目に飛び込んだだろう。
しかしあくまで湯煙略。
だが申し訳ない事に、これが他の誰かであれ彼女は照れていたはずだ。
照れが限界になったのか、彼女のオーラが瞬間的に変わった。
それに気づけなかったのが悪かった、と後から馬超は後悔する事になる。
やばい、と思い身を引こうとしたものの、覇王の右手が早かった。
「ちょっ……待て、待てって…………」
「ぎゃああっっぁああーーーー!!!!マジやhぁいってーーーーー!!!!!」
ベゴリッ!!!
皆さん只今入浴中。
湯舟で、歓声やらお馴染みトークで盛り上がっていた者達は・・・。
派手な音と共に、浴場入り口から殴り飛ばされて来た黒い物体が、湯舟にドバシャと叩き付けられる音を耳にし、一瞬しんと静まり返った。



